定性調査は、異文化を知り“生の声”を聞くもっとも効果的な方法

 私が初めて手がけたグループインタビューは、海外市場への参入を狙う日本の大手企業の商品開発調査でした。具体的には中近東諸国向けの商品開発で、オイルマネーで潤った現地のアラブ人を対象に、製品のコンセプトを提示してその評価を確認するというものでした。午後4時から1グループを実施して、それを終えて、午後6時からもう1つのグループインタビューが予定されていました。25年も前の話ですし、今ではそのようなことは起こっていないとは思いますが、当時は、午後4時になっても5時になっても対象者がひとりも会場に集まらず、肝を冷やした覚えがあります。

 現地のパートナー調査会社の担当者に“対象者がひとりも来ないとはどういうことですか!”と食ってかかると、“大丈夫。ここはアラブです、そのうちに来ますから”、そこで、“そんなことを言っていたら、午後6時からの調査対象者とインタビューが重なってしまうじゃないですか!”、すると“大丈夫、午後6時からの人たちも2時間くらい遅れて来るから心配いりません”。その後、現地のパートナーの言う通りになったことは言うまでもありません。また、グループインタビューが始まってからも問題が起こりました。いよいよ話題が佳境に、というところでインタビューが中断、いったい何が起ったのかと焦る私に現地の調査パートナーは穏やかに、“日没のお祈りの時間です、すぐ終わります”。ことほど左様に日本の常識ではまったく予想不能な現場ならではのアクシデントに見舞われました。

 でもこの驚きは序章に過ぎず、さらに驚くことがその後続出しました。日本企業が開発コンセプトとして提示した商品について、全員が手放しで“すばらしい、そんなすばらしいものがあれば自分は絶対に買いますよ!”その反応を聞いた大手企業のクライアントも私も大喜び。ところが、現地の調査担当者からは思いがけない言葉が。“アラブ人は絶対に相手に対して批判的なことは言いません。どんな商品に対してグループインタビューを実施しても同じような反応がありますから、これぐらいでそんなに喜んではいけません”。そこで、“それではグループインタビューをする意味がないではないですか?”と聞くと、“いやいや、定量調査をすると、おそらく95%が肯定的な回答をするはずです。でも、定量調査ではその理由を聞くのは至難の業ですがグループインタビューであれば、答えている態度で、社交辞令で話しているのか、ちゃんと評価しているのかが判断できます”。たしかにグループインタビューで司会者が、“なぜそれを良いと思うのですか?”と繰り返し質問や回答を促すと、返ってくる答えは“良いと思うから”の一点張り。本当に良いと思っているわけではないことがわかり、かなり気持ちが暗くなりました。

 このグループインタビューのいきなりの洗礼によって、異文化に参入することの難しさを思い知らされた貴重な体験でした。そのときに学んだ教訓は、『日本の常識は世界に通用しないこと、常に予測不能なことが起るのが現場であり、そこで起こったことを自分のモノサシだけで考えないこと』の大切さでした。

 同様に外資系企業が日本市場参入に向けて実施する定性調査は80年代から90年にかけて花盛りでした。今でこそ、「かわいい」や「もったいない」という形容詞は国際的な市民権を得ていますが、おじさんを見て「かわいい!」を連発する日本の女子高校生の感性を欧米企業のマーケターたちが理解できるはずもなく、ついには、「KAWAIINESS」という新生英語までが報告書の中で使用されたほどです。しかし、先ほどのアラブの例も外資系の例も、それぞれの異文化を知る上での生活者インサイトの理解はまだまだ表層的なレベルで十分だったといえますが、日本企業による日本人のインサイト研究となるとまさに心理学の領域にまで踏み込まなければなりませんでした。

 

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