新商品開発のための定性調査の心得10か条

 定性調査のメリットは、比較的短時間で結果が読めること、対象者の生の声によるバイアスのない評価を聞ける/得られること、調査票(ディスカッションフロー/ガイド)の質問に左右されない想定外の意見や発見、質問が理解されない場合に出来る軌道修正などのフレキシビリティ、声には出ないが対象者の表情から窺えるニュアンスの把握など、枚挙にいとまがありません。モノが売れない時代に売れるものを開発する。そのために、開発者やユーザーすら気づいていないものを発見する可能性を与えてくれる定性調査は今後ますますそのニーズが高まっていくものと思います。

 ところが、定性調査(グループインタビュー)は簡単にできそうに見えるが故に実際には多くの過ちがなされているようです。定性調査の企画や実施には多くの科学的な根拠や訓練されたインタビュアー(モデレーター:司会者)が必要です。調査依頼者(クライアント)側にこの周辺の知見がない場合、誤った定性調査の実施が取り返しのつかないマーケティング上の判断を呼び込んでしまうケースが見られます。武器は正しく使用しないととんでもない自滅兵器となってしまうのです。この様なことを踏まえ、皆様方が定性調査(グループインタビュー)を実施するうえで簡単に行えるチェックリスト、注意点を以下に列挙しておきました。

1:対象者の選定

 定性調査を成功させるためのもっとも重要なポイントは、対象者の選定です。このプロセスでは、評価対象となる商品やサービスの“ターゲットユーザー:想定使用者”に対する明確な仮説を持っていることが必要です。既存商品のリニューアルであれば、競合商品ユーザーからの意見と共に、既存商品のロイヤルユーザー(ヘビーユーザー)の意見を聞くことも極めて重要です。まったく新規の商品・サービスの場合には、ターゲットを広めに考え、想定ユーザーだけではない幅広い属性(性/年齢/価値観など)の人たちを含め、多くの意見を聴取する必要があります。

2:モデレーターの選定

 グループインタビューやデプスインタビューの成否は、モデレーター(司会者)・インタビュアーの力量に大きくかかってきます。モデレーターにはそれぞれ得意の分野がありますが、どの商品カテゴリーの調査を行うにしろ、対象となる商品や競合品の知識も必要ですし、対象者の意見を聞くことに徹する基本的な態度や対象者のインサイトを引出し判断するための科学的な訓練が必要です。定量調査では深堀に限界のある、「なぜ?」を追求していくことが基本的、かつ、最も大切な姿勢といえます。最近では、海外で行う前のプリテストとして、日本在住の外国人を対象としたグループインタビューなども行われるようになり、中国語や英語のバイリンガル・モデレーターも希少ながら、徐々に求められる時代になってきています。

3:事前の課題整理

 定量調査と変わりませんが、限られた時間内で対象者に何を聞きたいかを明確にし、それらをディスカッションフロー/ガイドにまとめる必要があります。但し、予想外の反応や議論の展開があった場合にフレキシブルにその理由を深堀する柔軟さも必要ですので、グループインタビューの実施においてはディスカッションフロー/ガイドの質問内容だけにしばられることがない様にする事も大切です。要は、最も重要な要素をどの様に引き出すかを管理することが大切なのです。

4:柔軟な発想力

 分析者は対象者の発言を表面的に鵜呑みにせず、その発言の背景にある深層心理を常に想像しながら話を聞くことが大切です。そして想像したこととまったく違う理由なり背景が語られたときには、その内容を探ると共に、自分自身の固定概念を切り替える柔軟さが必要です。

5:現場での対応力

 グループインタビュー対象者の遅刻や、インタビューを始めてみて対象者が事前の条件通りではない場合、遅れて入ってきた人の存在や条件違いの人の意見が全体の話の流れにどのように影響が及ぶかを的確、かつ、瞬時に判断する必要があります。判断によっては、そのグループから退場してもらうことを他の対象者に影響を与えずに行なうことが求められます。また、1対象者の思いもよらない発言でグループ全体が回らなくなってしまうこともありえますので、そのときは、慌てず騒がず、対象者に失礼がないことを心がけ、常識的に対応する事が大切です。そして、聞きたいと思っていた話題に切り替わったときには、とことんその流れを分断せずに聞くことも大切ですが、余り長く聞き過ぎて後の話題に大きな影響を与えてしまうと思われる場合には途中で切り上げることも大切です。

6:時間配分

 限られた時間内にインタビューを終えるための時間配分も十分に配慮しなければなりません。せっかくの機会だからと言って、てんこ盛りの質問を考えてしまいがちですが、実態把握であれば定量調査で十分です。その場でなければ聞けないことに焦点を当てることを心がけましょう。

7:バイアスの排除

 どこにでも意見をはっきり言う人とそうでない人がいます。インタビューの中で一人(オピニオンリーダー)の意見が全員の意見に影響を与えてしまうことがよくあります。その場合に2通りの対処法があります。

 (1) ただ単に声が大きいだけで建設的とは思えない意見の場合、なるべく黙っていてもらうように話を進めます。
 (2) ただし、調査目的に関係する意見の場合には、その意見が他の人たちにどのような影響を及ぼし、他の人たちがどのように反応し、納得し、変節していくかを見ることがとても重要です。

いずれの場合にも、グループインタビューの終了後に話の流れを整理して、オピニオンリーダーの意見がグループ全体のコンセンサスになったのか、ならなかったのかを確認しておくことが大切です。

8:発言の裏にあるものを見ようとする意識

 先述しましたが、人の意見は頻繁に変節します。その人が嘘をついているわけではなく、新しい情報によってどんどん判断に変化が起こるのです。他の人の意見によってどのように自分の意見が変わっていくかをみることに主眼を置いた“グループダイナミック・インタビュー”という手法もあるほどです。人の社会は、特に現代社会はITインフラからの情報を含め、口コミで成り立っています。この口コミの影響力、“なぜその人が別の人の意見によって左右されたのか?/どの言葉がもっとも大きな影響を与えたのか?”を推測することで潜在的なニーズを発見することができるのです。

9:結果の読み方

 定性調査(グループインタビュー)の結果分析は非常に難しく、生活者の定性的なニュアンスがわかったとしても、その意見が市場の大勢を占めるとは言い切れません。定性調査の結果は、必ずしも定量的に正しいとは言い切れないことを認識しておく必要もあります。逆の場合がほとんどとは思いますが、定性(質的)調査で得られた結果を定量的に検証する必要となることもあります。それぞれの調査結果で異なる結論が見えたときには、結果が導き出された背景を丹念に精査して“理由”を判断することが必要です。この違いを導いた答えは必ずありますし、この分析プロセスが新商品/サービスの開発で大きな役割を果たす場合が多いです。

10:結果の共有方法

 調査結果を実際のマーケティング活動に直接反映させることは組織の成り立ちや企業規模によって一筋縄ではいかないことが多いと思います。これを避ける手段として、グループインタビューに関係者の多くを招き、生活者の実際の声(生声)を一緒に聞き、その上で関係者全体の見解を出すためのワークショップを行うことが非常に効果的です。そのワークショップを運営するためのファシリテーションの方法もいろいろ開発されていますし、非常に有能なファシリテーターもいますが、参加する人たちが皆同じベクトルを向いて真摯な態度で臨むことが最も大切なことだと思います。

 生活者も開発者も気づいていない真実を掘り下げようという探究心と、その結果をいかにモノ作りやより良い社会作りへの貢献に置き換えるかの意志力が大切です。まずは周りの人の意見に耳を傾け、自分と違う意見があればその理解をする姿勢をもつことから始めましょう。

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