顧客インサイトを探るマーケティング・リサーチの最新手法 テレビ電話インタビュー

執筆者:株式会社ユーティル シニアマーケティングリサーチコンサルタント 藤吉 孝之(ふじよし たかゆき)

 

  マーケティング・リサーチを簡単にいうと、「顧客のことを理解しようとする活動」といえるでしょう。今回は、顧客インサイト(顧客の隠れたニーズ)を引き出しながらもインタビューコストを抑えることもできる手法として最近注目を集めている、「次世代型のマーケティング・リサーチ・ツール テレビ電話インタビュー」をご紹介します。

 ここで皆さんに質問です。皆さんは、以下の文章にいくつ○がつくでしょうか?

  • 気軽にお客様の声を聞きたいのだけど、どうしたらいいかよくわからない。
  • お客様のことを深く理解するためのマーケティング・リサーチの手法に興味がある。
  • これまでのマーケティング・リサーチ手法に限界を感じている。
  • 顧客インサイトを発見したい。発見できるようなマーケティング・リサーチ手法に興味がある。
  • 行動観察やエスノグラフィといったマーケティング・リサーチに興味がある
  • 地方でグループ・インタビューをしたいのだが、費用と手間を考えると尻込みしてしまう
  • グループ・インタビューやデプス・インタビューにかける時間と費用を削減したい。

 ひとつでも、○がついた方は続きをお読みください。本文の中には、これらの興味を満たしてくれたり、悩みや疑問を解決したりしてくれるヒントや発見があるものと信じております。

 

グループ・インタビュー/デプス・インタビューというマーケティング・リサーチ手法

 マーケティング・リサーチというと、アンケート調査を思い浮かべる人も多いかと思います。これは一般的には定量調査と呼ばれ、「○○ブランドの認知率は40%」とか「AとBを較べると、60%の対象者がAを買うと回答」といったような、数字で表される結果(数値情報)を得るためのリサーチ手法です。もうひとつ、マーケティング・リサーチの手法には定性調査と呼ばれるものがあります。定性調査は、インタビュアー(グループ・インタビューの場合はモデレーターと呼んだりもします)のコントロールのもと、6名前後の対象者による座談会形式(グループ・インタビュー、略称グルイン)や一対一の個人面接形式(デプス・インタビュー、略称デプス)によって、自由な発言(言語情報)を取得するためのリサーチ手法です。その情報を分析することによって、例えば新商品開発のアイデア発見や既存商品の問題点抽出といったようなマーケティング課題を解決するために利用されます。通常、バックルームでインタビューの様子を観察することができる専用のインタビュールームに対象者を呼んで1-2時間程度のインタビューを行い消費者の深層心理へのアプローチを試みます。

 定性調査の一番のメリットは、顧客のナマの声を直接聞けるということかと思います。アンケート調査からの数字だけでは読み取れない、顧客の自社商品に対する不満や期待を肌で感じることができます。アンケート調査の場合は予め質問が決まっているために質問したことにしか答えは返ってきませんが、グルインやデプスといったインタビュー形式の場合には、予めガイドラインは決めておくものの、対象者の発言によって、インタビュアーが臨機応変に質問する内容を変えて進行していくので当初予定していなかった発言が出現し、今までに予見していなかった新たな発見があったり深い消費者心理が理解できたりすることも珍しくありません。そして、この定性調査から得られた新たな発見や深い消費者心理の中には無数の新しいビジネス・チャンスが含まれていることが多々あります。このような理由で、近年定性調査の重要性がマーケティング・リサーチ実施企業の中で高まっているように思われます。

 さて、話は変わりますがインターネットの普及によって、様々なビジネスに変革がもたらされたことは、ここに書くまでもありません。読者の皆様が日々実感されていることだと思います。マーケティング・リサーチ業界もインターネットの普及と共に大きな変革がもたらされました。10年前には存在しなかったインターネット・リサーチという調査手法が、今や日本のマーケティング・リサーチの手法の35%※までを占めるナンバーワンの手法になっています。

 このインターネット・リサーチの手法と、定性調査のニーズの高まりを組み合わせて生まれたのが、「次世代型のマーケティング・リサーチ・ツール テレビ電話インタビュー」です。テレビ電話インタビューによって、今後のマーケティング・リサーチは、どのように変わり、どのようなベネフィットが得られるようになるのでしょうか・・・

※日本マーケティング・リサーチ協会(第34回経営業務実態調査より)

 

 

テレビ電話インタビューとは

column2_a.jpg 皆さんはテレビ電話というものを使ったことがありますでしょうか。手塚治虫の「鉄腕アトム」で、初めてテレビ電話というものを知って、いつの日かこういう機器が開発され実用化される日が来るのかと、夢に心躍らせていた人も多いのではないかと思います。そんな昔の夢が簡単に実現する時代がやってきました。ご存知のように現在のほとんどの携帯電話にはテレビ電話機能がついています。高速インターネットへの接続とWEBカメラさえあれば、パソコンからも、自宅で気軽にテレビ電話を楽しむことが可能です。このようにテレビ電話が簡単に利用できる環境は整いました。その割には、テレビ電話が普及しないのは皮肉なものですが(笑)。

 

 テレビ電話インタビューは、インターネット回線を利用したテレビ電話を活用して、グルインやデプスといった定性調査を実施します。対象者は自宅で、貸し出された、インターネット回線を利用するテレビ電話専用機器を使って、インタビュアーや他の対象者の表情を見つつ発言を聞きながら、インタビューに参加します。一方、企業担当者は、オフィスの会議室等でインタビューの様子をモニタングすることが出来ます。

 ちなみに、インタビュー対象者に貸し出されるテレビ電話機器は、とてもユーザーフレンドリーなものです。対象者は自宅のインターネット回線に機器を接続し、ボタンを押すだけでテレビ電話が実施できる。そんな簡単なテレビ電話システムを導入することによって、パソコンや機械があまり得意でない人でもテレビ電話グルイン・デプスの対象者としてインタビューに参加してもらうことが可能になりました。

グループ・インタビューやデプス・インタビューにテレビ電話を使うことによるベネフィット

 では、グルインやデプスをテレビ電話を使って行うことによって、どのようなベネフィットが生まれるのでしょうか?これまで実施されてきた従来型のグルイン・デプスとの大きな違いは以下の3つです。

  • 対象者が自宅にいる(従来型は対象者にインタビュー専用ルームに来場してもらう必要がある)
  • 企業担当者は、オフィスでインタビューをモニターする(従来型はインタビュー専用ルームに行ってモニタリングする必要がある)
  • インターネットのメリットが活用できる

 この3つの違いは、リサーチにどのような変化をもたらすのでしょうか。

 

対象者が自宅にいることによるベネフィット

 
 「事件はインタビュールームで起きてるんじゃない。家庭内で起きてるんだ!」どこかで聞いたような台詞ですが、これはグルインやデプスにもあてはまります。グルインやデプスでリサーチされる多くの商材は、食品・日用品・家電製品等の家庭内で使用されるものです。であれば、わざわざインタビュー専用ルームに対象者を呼んでインタビューするよりも家庭内でインタビューする方が、リアルな声が得られるのではないでしょうか。

 例えば、食器用洗剤のニーズを探るための調査で「普段の食器洗いでどんなことがお困りですか?」とインタビュールームで聞いても、対象者は、自分はどんなことが困っていたのかな・・・と普段あまり意識していないようなことを無理やり頭から引っ張りだしてくるので、通り一辺倒なニーズ発言しか得られません。しかしながら、自宅で「これから食器洗いをしてください。そして、そのときに考えたり、感じたりしたことを後でお聞かせください」とお願いすると、実にたくさんの、生々しいニーズ発言が得られます。

  また、テスト品を自宅で使用してもらい、その評価を得る、いわゆるホームユーステストというリサーチにおいてもテレビ電話インタビューならではのリサーチが可能です。例えば、「現在開発中のシャンプーのテスト品を使った直後の使用感についての定性情報を得る」といったリサーチは、インタビュールームでシャンプーしてもらうわけにはいかないので、従来のグルインやデプスではほとんど実施が不可能なリサーチ課題でした。ところがインタビュー開始前に自宅でシャンプーを利用してもらい、その後にテレビ電話のインタビューに臨んでもらうことは簡単です。このようなリサーチも対象者が自宅にいるからこそだと思います。

  家族全員が使用する商品、購入者と利用者が違う商品に関するリサーチにおいてもテレビ電話インタビューは威力を発揮します。家族全員や購入者と利用者の両者にインタビュー専用ルームに来てもらいインタビューすることは、参加率が極端に落ちるので簡単ではなく、従来のグルイン・デプスではこれまではほとんど実施されていないのが実情です。しかしながら、テレビ電話を使い、自宅でのインタビューをすると、このような問題が一気に解決されます。

 

企業担当者がオフィスでインタビューをモニタリングできるベネフィット

 
 いうまでもありませんが、企業担当者はグルイン・デプスを観察(モニタリング)するためにインタビュー専用ルームにわざわざ出向く必要がありません。これは時間と交通費の大きな削減となります。特に地方でのインタビューを予定している際には大きな威力を発揮します。現在、グルイン・デプスのインタビュー専用ルームは首都圏以外にはほとんどないのが現状です。よって、地方でインタビューを実施しようとすると、会場設置や大人数移動などで、かなりの大掛かりなコストと時間がかかるプロジェクトになってしまうので、あきらめてしまうケースが多いのが実情です。テレビ電話を活用すると、たとえばオフィスにいながら、午前中に福岡の対象者へインタビュー、午後に大阪、夜に札幌の対象者へのインタビューといったことが、あたりまえのように実施できます。

 また社内でインタビューをモニタリングすることが可能になると、インタビューのモニタリング参加率が格段にアップします。例えば多忙な経営層はインタビュー専用ルームに行って、グルインやデプスを見て自社のお客様の声を聞くといった機会は現在殆どないことかと思います。しかしながら、会社の会議室でお客様の声を聞くことができるテレビ電話インタビューであれば、そのような機会も増えるのではないでしょうか。この連載の第1回で経営者が顧客と向き合うことの重要性について述べましたが、テレビ電話インタビューはまさに経営者が顧客と触れ合う機会を広げるツールといえましょう。

 

インターネットを活用するするベネフィット

 
 テレビ電話を使うとインタビュー専用ルームの空きスケジュールに左右されることなくインタビューが実施できます。また従来は「知り合いの知り合い」といった人の繋がりから対象者条件(例えば、○○ブランドを使用している20代の女性といったように通常リサーチ課題に応じてインタビュー対象者を絞り込みます)に会う人を探す機縁法によって、インタビュー対象者を探していたので、リクルーティング(インタビューの対象者を確保すること)に非常に時間がかかっていましたが、テレビ電話インタビューでは、インターネットによってリクルーティングを行うので、対象者確保の期間が従来式より大幅に短縮します。ゆえに従来型のグルイン・デプスよりもスピーディーにリサーチが実施できるというベネフィットも生まれました。またインタビュー専用ルームの利用料や交通費がかからない、対象者の拘束時間が短くインタビュー謝礼が従来よりも少なくても大丈夫といった理由で、従来型のグルイン・デプスよりもテレビ電話を使ったグルイン・デプスにかかる費用は少なくてすみます。さらにはリクルートソースとして全国大規模インターネット調査パネルを利用することにより日本全国どの地域の居住者も対象者となり得ます。このため、希少サンプルをリクルートしやすくなり、かつ参加者は時間の拘束を受けにくく従来型よりも参加率がアップするので、テレビ電話インタビューにはレア・ターゲットのリクルーティングに適しているというベネフィットもあります。

 

インターネット・テレビ電話インタビューが活躍した事例

ここで、これまでにテレビ電話インタビューが活躍した、いくつかのリサーチ・プロジェクトの事例をご紹介しましょう。

 

事例1:リクルートが困難な対象者にインタビューした事例

 野球スパイクの新製品に関して、強豪校の高校野球部員にインタビューしたいという要望がありました。ご存知のように強豪校の野球部員は平日はもちろんのこと、土日も練習や試合があります。そのため従来式のグルインやデプスではインタビュー会場にまで来場してもらいインタビューするのは非常に困難です。しかしながら、テレビ電話を使ったデプス・インタビューであれば、平日、彼らの練習が終わって帰宅した後に自宅でインタビューを実施することができ、彼らの新製品に対する貴重な意見を聞くことができました。

 

事例2:全国調査で大幅なコストと費用を削減した事例


 全国に展開するファミリーレストランチェーンのマーケティング担当者から、利用者にファミレスの利用実態や当該チェーンに対する満足度を聞きたいという相談を受けました。しかしながら、地域によって消費者の嗜好や競合状況が異なります。地域ごとのニーズを把握するために全国各地でグルインを実施するとなると莫大な時間とコストがかかり、また現地に行ってインタビューをモニタリングできる人数も限られるので社内で結果を共有するのが難しい。そこで、採用されたのがテレビ電話グルイン。自社の会議室で全国各地のグルインをライブでモニタリングすることによって、地域ごとの課題とそれに対する戦略を社内で共有化することが出来ました。

 

事例3:テレビ電話を行動観察調査に活用し消費者インサイト発見に活用された事例

 スキンケア商品を扱っている企業のマーケティング担当者から自社製品・競合製品が実際にどのように使われているのかを見たいというリクエスト。女性がスキンケアをしているところを、観察することにより、消費者の隠れたニーズ(いわゆるインサイト)を抽出して今後の新商品アイデアを出せないかと相談を受けました(同時に、その商品に関して、顧客が想定通りの使い方をしているかどうかを見たいという思いもあったようです)。これまでは、自宅にどのようなスキンケア用品があって、どのような順番でどのように使っているのかを確認しようと思えば、これまでは家庭訪問をしてその様子を実演してもらうしかありませんでした。ただし家庭訪問型のリサーチは様々な制約があります。まず、家庭訪問できる人数はスペースの問題と、対象者へのプレッシャーの問題から限られてきます。また、対象者は見られているという意識が強くなり普段と違った行動をしたりすることもあります。しかしながら、テレビ電話インタビューを使うと、このような問題は一気に解決します。このケースではテレビ電話前で、普段のスキンケアを実演してもらい、その様子を録画させてもらいました。そして、その録画を、インタビュアーと被験者がテレビ電話インタビューによって一緒に振り返りました。その際インタビュアーが「なぜこのような行動をしているのか」、「なぜこのような商品をつかうのか」、「どのような気持ちで今の行動を行ったのか」等のかなり突っ込んだ質問することにより、対象者自身がそれまでに気がついていなかった無意識の行動や気持ちを抽出することに成功し、このインタビューからの発見(インサイト)は新商品のアイデアとなりました。

 

顧客インサイトを探るツールとしてのテレビ電話インタビュー

 現代の日本はモノがあふれています。生活者の回りには、必要なものは充分すぎるほど満たされており、自分が新たにどのような商品が欲しいのか、生活者自身もわからないというのが実情でしょう。こういう時代においては、単なるアンケート調査で質問した結果の分析のみによって、ヒット商品につながる新しい発見をすることは非常に難しくなってきています。そこで多くの企業は、今までとは違った方法で、今まで以上に、より深く顧客を理解したいと考えるようになってきています。所謂「顧客インサイト(顧客の隠れたニーズ)」を探るといったことが、今後マーケティング・リサーチに求められる大きなテーマの一つになってきていているといえましょう。このテレビ電話インタビューは、そんなニーズに応えるひとつのリサーチ・ツールであるといえます。

 事例で紹介させていただいた女性のスキンケア行動観察調査は、顧客インサイトを発見するためのリサーチの一例です。その他にも、参加者にインタビュー時にテレビ電話のカメラで自宅の中の様子を映してもらい、その参加者のライフスタイルを理解したり、冷蔵庫の中を映してもらいどのような商品をストックしているかを理解したりしながらインタビューをするといったことが考えられます。また、キッチンで皿を洗ってもらいながら、あるいは料理をつくってもらいながらインタビューをするといった試みも面白いでしょう。これらは、今まで実現が難しかったが、テレビ電話インタビューを活用することによって実現可能になる調査のほんの一例です。もちろん、これら以外にも、テレビ電話インタビューを利用した様々なリサーチの可能性が考えられ、今後、更なる研究と実践がすすめば、テレビ電話インタビューは、今まで以上に深い顧客理解を得るための有効なツールとして発展していくのではないかと考えています。

  マーケティングとは何か?という問いに対し、最近改めて注目されているドラッカーは次のように述べています。「マーケティングの役割は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、おのずから売れるようにすることである。」この言葉が意味するのは、顧客を理解することをあきらめてしまった企業はすぐに顧客から見捨てられてしまい、顧客を理解した企業のみが今後の競争に生き残っていけるということかと思います。とはいえ顧客を理解することは簡単なことではありません。ましてや人間という極めて複雑な生き物である顧客を完全に理解することなどは不可能であり、その追求は決して終わることはありません。それは企業にとって果てしなきチャレンジであるといえましょう。マーケティング・リサーチはそんな果てしなきチャレンジのための手段です。そしてテレビ電話インタビューは、極めて複雑な生き物である顧客を理解するためのマーケティング・リサーチの新しい武器といえましょう。

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