「売れる理由・売れない理由」を徹底解明する「顧客購買行動分析」

執筆者:エンバイロセルジャパン エグゼクティブディレクター 福田 弘二(ふくた こうじ)

 

 “顧客購買行動分析”の世界的なリーディングモデル、エンバイロセルは、海外で160万部以上、日本国内でも20万部を超えるベストセラー、『なぜこの店で買ってしまうのか:ショッピングの科学』(早川書房)の著者であるパコ・アンダーヒル(Paco Underhill)が開発したものです。スターバックス、マクドナルド、シティバンクなど、数多くの米国大手企業がこのモデルを実施、高い評価を得ると共に、全世界のマーケティングや流通関係の会議、或いは、New Yorker誌やFortune誌などで度々取り上げられています。マーケティング・コンサルティングの分野に「顧客購買行動分析」というまったく独自の手法を確立、日本でも、徹底した現場主義で購買者行動観察を実施、これまでに培った独自の知見を組合わせ、「売れる理由・売れない理由」を解明、リテールマーケティングに革新をもたらしています。

 

店頭での「POS未満」の状況を知る

 このモデルは、米国エンバイロセルの創業者であり、現在も最高経営責任者(CEO)の任にあるパコ・アンダーヒルが、自ら考案した「徹底した購買者の行動観察に基づく分析手法」をインストアマーケティングに生かすことを目的として、1979年にアメリカで生まれた購買者行動解析モデルです。社名にも用いられている「ENVIROSELL:エンバイロセル」とは、EnvironmentとSellの造語であります。環境のEnvironmentと、売るという意味を持つSellの二つの言葉を組み合わせたもので、購買者の行動や心理に影響を与える環境を改善し、「売れるための環境」作りに必要なソリューションをクライアントに提供していくという理念が込められています。

 店頭での購買者行動のトレンドを把握するため、従来から主に「POSデータ分析」と「消費者調査」の二つの調査方法が用いられてきました。一つめの「POSデータ分析」は、“購買結果”という事実を捉えたデータから商品が購入された状況(いつ、誰が、何を)を知ることができるものです。二つめの[消費者調査]とは、訪問調査やインターネット調査など、主に過去の購買経験(記憶)や今後の購買意向(希望)から購買目的や背景を推察するものです。このようなPOSデータ分析や消費者調査によって、“購買結果に基づく事実の解析”から捉えた消費者の群像や購買傾向、また、使用シーンからみた消費者ニーズは深く研究されてきたといえます。しかし、買物の現場である店頭での購買者のありのままの姿(行動実態)やその背景に潜む心理の探求はほとんどなされてこなかったのではないでしょうか。そこで、エンバイロセルは、店頭での購買行動実態とその行動の裏に潜む購買者心理を同時に調べ上げることで、「POS未満」の状況を知ることに主眼を置いてきたのです。

 さて、購買者行動には、「意識して買っていくもの」と、「無意識の行動」があります。店頭アンケートを行うと、実際にある商品を見ていたはずの人にその商品を見ていたかを尋ねても、「見ていない」と答える人が少なくありません。購買者は商品を見ているようで、意外と見ていないのです。購買者は自分で意識的に選んだ商品は覚えているものですが、無意識の行動は記憶に残らないのです。しかしながら、実際には無意識の行動が深層心理を表しているケースも少なくありません。だからこそ、私たちは、店頭でのありのままの購買行動の実態とその行動の裏に隠されている心理を同時に捉え、購買決定に至るまでの「POS未満」の状況を把握するようにしているのです。

 

まずは、「消費者の検討の土俵」へ

 我々は、無意識の行動を含めた購買者の行動をみていかなければなりません。そのために店頭観察で見極める重要なポイントは、その商品が「消費者の検討の土俵に上がっているか否か」ということです。

 よく流通やメーカー関係者は、「売れない」、「売れていない」と嘆いておられますが、「商品が売れない」という事実を店頭での消費者の購買行動に置き換えてみると、二つの大きな特色に分けることができます。ひとつは「商品を見てくれているのに、買ってもらえない」こと、もうひとつは「商品を見てくれないから、買ってもらえない」ということです。消費財の場合は、後者が特に重要な問題となってきます。なぜなら、消費者の購買行動は過去の経験や体験から生まれた固定概念、「ここに行けば、この商品があるだろう」、或いは、「あの商品が欲しいときには、あの売り場に行けばいい」などと考えてしまいやすいからです。つまり、固定概念が無意識の行動を引き起こしているケースが多いのです。

 例えば、発売前に行った消費者調査での評価が非常に高い商品であっても、売り場で見つけ難いケースがあります。ドラッグストアやスーパーマーケットの売場では、ひとつの商品カテゴリーに数十から数百種類もの商品が並んでいるのが現実です。しかし、購買者が実際に売り場で検討する商品は多くても十個に満たないのです。つまり、売り場に来た段階で、購買者は固定概念から自然にある程度の商品を排除しているのです(絞り込み)。「このあたりの売場に求めている商品があるだろう」、「ここに置いてある商品は安そう、或いは、高そうだ」、と云った判断をこれまでの購買経験値から意識するという、購買者の行動特徴の一つなのです。

 さて、皆様はご自身の購買行動を振り返ってみて、商品イメージとパッケージの色や形が強く結びついていることに気付いたことはありませんか?例えば、辛いものは赤いパッケージ、湿布薬であれば青系統のパッケージといったことです。そして、売場でもそういった色合いの商品が多く並んでいる場所で探すといったようなことです。実際に購買行動を観察してみると、多くの購買者がこのような商品群の売場で、青色や赤色のパッケージばかりを検討していることに気付きます。この事実に関連した事象、これは似たようなデザインのパッケージが多いカテゴリーで起こりやすいマーケティング行動なのですが、商品の差別化を図るために、他商品と異なる色やデザインのパッケージを敢えて投入するケースがあります。勿論、事前の消費者調査で目立つパッケージとして良い評価をされたから投入に踏み切るわけですが、その新パッケージが購買現場では検討すらされないということがしばしば起こります。これは買物客の頭の中にある「○○ 商品は△△色」といった思い込みが影響しているケースなのです。せっかくパッケージの色やデザインを際立たせたとしても、目に入っていながら無意識のうちに目的の商品群ではないと認識され排除されてしまうことが多いのです。こういった場合、パッケージのデザインを変更しなくとも、棚割、販促物、陳列方法などを改善し、お目当てグループの商品であることを認識させ、まずは「検討の土俵に上げる」ことが重要となります。そこでやっとパッケージの色がプラスに作用し、売上が向上する結果に繋がるのです。

 つまり、発売前の消費者調査で評価が高い商品でも、実際、店頭で商品が並んでいるときに「購入を検討する土俵」に入っていなければ、売場で検討すらされないのです。だからこそ、パッケージを変更する前に、まずは、その売り場がお客様にどのように見えているのか調べていくことが非常に重要になるのです。

 

売場でいかに商品を想起させることができるか、これがポイントである

 例えば、塩のように、似たような商品パッケージが複数並んでいることがよくあります。しかし多くのお客様には、商品をぱっとみた瞬間、そこはひとつの塊(塩)にしか見えないのです。でも実際の売場では、リーズナブルなものから、プレミアムな塩までいろいろな種類の塩が展開されています。ところがお客様にとっては、単なる「塩」としか認識されない。なぜなら、過去の経験から、プレミアムな塩があるという認識を持っていない人が多いからです。そうなると、多くのお客様にはプレミアムは、「特別なものとしてではなく、単なる高い物」で終わってしまうのです。

 そこで、塩の売り場にサブカテゴリーを作り、グルーピングして訴求してみます。すると、サブカテゴリーへの興味度合いが高くなり、また、流通側にとっても消費者が認識する商品カテゴリーが増えることになり、検討率が高まる結果が見られます。売場ではモザイク画をイメージすると良いのです。モザイク画は近くで見ると、複数の色の要素がそれぞれに主張してしまい、その情報から全体を理解することは難しいものです。しかし、遠くから見ると、一つひとつの形がわかる。つまり、売場もカテゴリー区分などをうまく活用することで、購買者に売場を直感的に理解させる(意識させる)ことができるのです。だからこそ、購買者に短期間で訴求していくためにも、サブカテゴリーなどをしっかり作り、訴求するものを明確化することが非常に重要なことといえます。

 また、購買者のニーズを売場で顕在化させていくことも重要です。逆に言うと、売り場しだいでは購買者のニーズが更に顕在化していくのです。

 4〜5年前の調査での経験ですが、液晶テレビの売り場は商品をインチサイズ別に並べることが一般的でした。インチサイズ別に並べること自体は良いと思われますが、「液晶テレビを売る」といった観点からは問題がありました。当時は、フルスペックハイビジョンの液晶テレビが出始めた頃で、各社数台をラインナップし、その価格もスタンダードの液晶テレビと比べ10万円くらいの差がありました。

 ここでのポイントは、多くの消費者は店頭で「フルハイビジョン」という意識を持っておらず、プラズマ、或いは、液晶テレビという概念でしかなかったのです。そうすると、中には興味を持つ人がいますが、大半の人は“フルハイビジョンテレビ=単なる高いもの”としての理解しかなく、購買の対象から排除してしまっていたのです。なぜかというと、多数のスタンダードテレビにまぎれて展示されるフルハイビジョンテレビは知識やイメージのない購買者にとっては、単なる少数派の商品にしか映らなかったのです。しかし、流通側もメーカーも高い商品を売りたい。だから、店員にフルハイビジョンの接客の強化を指導するわけですが、購買者に興味がないものをすすめても彼らの反応はなく、そんな話を聞きたくないと、シャットアウト(耳を塞いで)してしまうのです。

 そこでどのように対応したかというと、先ずはフルハイビジョンのものだけで集合させてみました。そうすると、意外に大きなコーナーができるので、それをみた購買者には「こんなに並べてあるのはなぜだろう」という意識が生まれ、さらに主流感も感じやすく「これはいいのかな?」という意識が生まれてくる。そうして、店員が積極的に接客する前に購買者から質問が出始めるという結果がでたのです。

 購買者に「これならいい」と納得させることは、本来は接客術で行われることが多いのです。しかし、購買者が興味を持つ前に無理やり押し付けても、拒絶されてしまう。こういうケースは、結構多いのです。だからこそ、どういう形で興味を持たせていくか、そのためにどうやって店頭で主流感を作っていくかが、非常に重要になってくるのです。

 

店頭では、短時間で商品特徴を刷り込ませる

 さて、“決め打ち”で買っていく商品を買いに来たからといって、入店の際に、購買者は必ずしもお目当ての売場だけを見てみようと思っているわけではないのです。店に入れば、売場に行き着くまでに、様々な売場に接する機会が生じるのです。そこで、この段階でいかに商品や売場に興味を引く仕組みを作るかが重要になってきます。その際に必要なのが店頭ツールです。

 例えば、ある商品を店頭で検討する時間を計ってみると、数10秒かけて検討するのは、興味を持った商品くらいです。興味のないものは数秒で終わってしまいます。従って、この数秒でいかに消費者の心を引き止めるかが大事になってきます。

 また、エンド陳列での検討時間も、平均10数秒程度なのです。そうなってくると、店頭では、短時間で消費者に商品理解をさせるサイン型POPか、商品の説明をじっくりと読んで理解してもらうコミュニケーション型POPを使い分けることが重要となってきます。

 例えば、デジタルサイネージの1種である“TVモニター”は、サイン型広告の顕著なものといえます。ただし、モニターといっても、音が出るケースと出ないケースでは、その媒体としての効果に大きな違いが出てきます。

 (※エンド陳列: コンビニやスーパーマーケットの店内にある陳列棚の両端のことをいい、お客様の目に止まりやすいことから様々な販促プログラムが実施されるスペース)

 コミュニケーション型POPは、購買者が能動的に情報収集としようとしている状態では良いのですが、店頭での消費者の心理の大部分は受動的な状態であることが多いものです。そうなると、どんなコミュニケーション型のPOPをたくさん設置しても、興味を持つ前に検討が終わってしまうケースが多くなってしまいます。商品説明をするデジタルサイネージ等に効果がないのは、受動的心理状況の消費者に無理やり見せようとするからなのです。

 もうひとつの重要なポイントは、短時間で消費者に商品の特徴を刷り込ませることが出来るかどうかということです。ある商品の発売時期に、(1)テキスト中心に商品の特徴を語ったPOPと、(2)イラストや写真を使い言葉を少なめにしてその商品の特徴を(イメージさせて)見せた POPを使い、同じ商品で試してみました。これらを検討した人のうち何割が買っていったかという結果では、前者(1)の場合、検討者の15%が購買、後者 (2)は35%が購買に至りました。これを売上げに直すと、だいたい2倍になりました。また、それらの検討時間でも、前者の場合、買った人の平均検討時間は約40秒、そして、後者の場合は21秒という結果になりました。つまり、どんなに良い商品やサービスでも、購買者がわかりやすいようにしないと、彼らにスルーされてしまうということです。CMが少なくなってきている昨今は、なおさらそういう結果になってくるのです。

 購買者の検討時間は、全体的にみて短くなる傾向にあります。だからこそ、直感的に感じ取れる売場が重要なのです。そのためにも、購買者に商品特徴を端的にイメージ(想起)させるツールやパッケージが必要となってきます。

 

消費者の状況にあったコミュニケーションを

 また、実際の購買者の立ち位置や待ち時間の心の余裕などが重要になってくるケースもあります。例えば、銀行のATMのコーナーで2〜3番目に並んでいるとき、人はどのような行動をするのでしょうか。ほとんどの人がどこのATMが空くのかで頭がいっぱいになっています。そんな人にPOPを見てくれと言っても無駄なのです。また、逆にガラガラだと、先ずは用事を済ませることに集中してしまいます。つまり、ATMへ一目散に向かうのです。順番を待っている人を観察し続けると、7〜8番目以降の人は、キョロキョロと落ち着きがなく、色々なところに視線が向かいやすい。つまり、心の余裕があるということです。となると、彼らから見える位置でPOPやツールを展開していく事が、ひとつの戦略になることも有り得るのです。

 このように、購買者の行動を客観的に詳しく観察、そして分析することで、「どういった顧客層に興味を持ってもらっているのか」、「どういったPOPが購買時に見られているのか」、「どういった購買者が買ってくれないのか」といった基本的情報収集にとどまらず、店頭での売り方に関しても即効性のある解決策を見出すことのできるパワフルなツールとなり得るのです。

 

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