デジタル時代のマーケティングコミュニケーションを評価する

執筆者:株式会社ユーティル マーケティング・アドバイザー 利光 英夫(としみつ ひでお)

 

 「マーケティングコミュニケーションとは何か?」と問われると、40年近くこの分野に携わってきた私でも容易には答えられません。なぜならマーケティングコミュニケーションの当事者である企業も消費者も変わりつつあり、使用されるツールも多様化しているからです。

 社会も大きく変わりました。世界ではベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦が解体しました。日本でも自民党独裁が崩れ、多くの著名企業が倒産・合併しました。米国に追いつくことを目指していた日本が、今やGDPで中国に抜かれようとしています。こうした時代のなかで、企業のマーケターはどのようなコミュニケーション手法を選択すべきでしょうか?

マーケティングコミュニケーションの現状と、これからあるべき方向性について、関連データを基に論じたいと思います。

 

 本稿で所見を述べるにあたって、まずマーケティングコミュニケーションとは何かという点を明らかにしたいと思います。

 社団法人日本マーケティング協会の定義(1990年)によれば、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行なう市場創造のための総合的活動である。」とされています。一方でマーケティングの本家である米国マーケティング協会でも、2004年に1985年以来19年ぶりに定義の改訂が行なわれました。新しい定義は、「マーケティングとは、組織と利害関係者にとっての利益となるように、顧客に対する価値を創造・伝達・提供し、顧客との関係を管理するために行なわれる組織的な活動とその一連の過程である。」となっています。どちらの定義を見ても"顧客との関係"を強く意識している点が注目されます。アナログ時代のマーケティングでは、"売り手"から"顧客"への片側通行を中心としたプロセスでしたが、近年のマーケティングでは"顧客"の対応を考慮したプロセスを重視する方向へと変化しています。この原点となったものがインターネットの登場によるコミュニケーション手段の変革であり、同時に"デジタル時代に対応したマーケティング手法"が求められるようになったのです。

 

1.マーケティングコミュニケーションとは:

    図1.マーケティング・コミュニケーションの構成要素

column4_a.jpg 上記で述べたマーケティング目的を達成するための、"顧客"に働きかけるプロセスが「マーケティングコミュニケーション」であり、具体的には図1で示す要素から構成されています。

 

 デジタル時代のマーケティングコミュニケーションでは、消費者の行動モデルも旧来の「注意(Attention)⇒興味(Interest)⇒欲求(Desire)⇒記憶(Memory)⇒購入(Action)」(AIDMAの法則)から、「注意(Attention)⇒興味 (Interest)⇒検索(Search)⇒購入(Action)⇒情報共有(Share)」(AISASの法則)へと変化しています。購入した人がネット上で発言することで他の消費者と情報共有化を図ることとなり、インターネットの影響力が強くなりつつあることを論じています。

 

 

  情報共有化のツールも、掲示板・ブログ・SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)・ツイッターといった文字主体のものから、YouTubeやmyspace.comに代表される映像媒体へと発展・拡大しつつあります。

 通信の高速化に伴って情報の発信手法も多様化しており、マーケターは、今後顧客の情報発信がどのような方向へ発展・拡大していくのかを注視しなければいけません。

 

2.情報の種類と信頼性について:

 情報共有化への対応を図るためには、まず消費者がどのような情報を信頼しているのかを知る必要があります。

 

       図2.宣伝媒体/情報ソース別の信頼度

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 図2は、調査会社のニールセンが日本を含む世界50ヶ国で25,000人以上を対象に実施した調査結果ですが、消費者が最も信頼する情報源は「知人からの推奨」で、2009年4月調査では信頼度が90%に達しています。

 信頼度が70%で同率2位なのが「インターネット上の消費者意見」と「企業のウェブサイト」で、2007年調査からの伸びでは前者の伸びが上回っています。一方で、テレビ・新聞・雑誌・ラジオといった旧来型の媒体の信頼度は50-60%台にとどまっており、2007年調査からの伸びも僅かです。(特に「新聞」の場合は前回調査から2%も信頼度を落としています。)

 ニールセンの調査結果から、"消費者は自分たちと同じ消費者サイドからの声をより信頼し、"売り手"からの情報は余り信頼しない"、という変化がグローバルベースで進んでいることが分かります。

 

 

 

 

 

 

 

3.日常接触する媒体について:

 それでは日本の消費者は、日常どのような媒体と多く接触しているのでしょうか?

 

        図3.1日あたりの媒体別接触時間(分)

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  図3は、2009年6月に博報堂DYメディアパートナーズが発表した日本人約2千人を対象に実施した調査結果です。

 1日あたりで接触している時間の最も長い媒体は相変わらずテレビですが、テレビをはじめ新聞・雑誌・ラジオといった旧来の媒体がここ数年で構成比を落としているのに対して、PCおよび携帯電話から接触するインターネットの割合は大きく伸びて、2009年では合計で26.5%の構成比となっています。図表上に数値はありませんが、20代の男性ではPCからインターネットへの接触時間だけで116分と、テレビの111分を上回っています。iPadなどの新しい通信機器の登場、電子ブックやその他のネットソフトが登場するなかで、消費者が情報を収集する手段としてのインターネットは今後も大きく成長していくものと思われます。特に、若い世代への情報伝達を図るのであれば、マーケターはインターネットをより有効に活用していく必要があります。

 

4.媒体活用の現状について:

 次に、マーケターが各媒体を利用している実態を、媒体別支出費用の面から見てみましょう。

 

                   図4.媒体別広告費(億円)

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図4は、今年の2月に電通が発表した主要媒体別の広告費支出データで、電通だけでなく日本全体で支出した総広告費の推移を示しています。2008年のリーマンショック以降の経済低迷によって、ここ2年間の広告費総額は15%以上落ち込みましたが、インターネットの広告費は2年間で18%伸びています。インターネット広告費の構成比も2009年には約12%に達しており、2005年から比べると構成比は倍増しました。また2009年にはインターネット広告費が新聞の広告費を上回りました。

 こうした面だけを見ますと、マーケターはこれからより重要と考えられるインターネット媒体に力を入れているように思われますが、構成比を見ますと、2009年でさえテレビの28.9%に対してインターネットが11.9%と低く、その差は2.4倍になっています。

 3項の接触媒体で分かるように、消費者の1日あたりテレビ視聴時間は164分(2009年)であるのに対して、インターネットの利用時間は 86分(2009年=PCと携帯の合計)です。つまりテレビの接触時間は、インターネットの接触時間の1.9倍にしかすぎません。また2項で述べたように、インターネット上の消費者意見(信頼度70%)の方がテレビの信頼度(62%)を大きく上回っています。さらには、新聞・雑誌といった旧来メディアの一部が、電子化によって益々インターネット分野へと吸収されていきます。大容量通信の普及によってインターネットでの映像配信も拡大しますから、テレビの分野もどんどんインターネットに浸食されていくでしょう。こうした時代背景を考えると、マーケターは今後インターネットへの支出を大きく増やすことが必要だと考えられます。

 2005年に「ホリエモン」がニッポン放送への敵対的買収を図った際、『インターネットと放送メディアの融合によるシナジー効果』と謳いましたが、時代が流れるにつれて今こそ、その本質的な方向性を見極める時がきたような気がします。

 

5.新たな活用事例について:

 それではマーケターとして、具体的にどのようにインターネット媒体を活用していけばよいのでしょうか?そのヒントになりそうな活用事例をあげてみましょう。

 下表は、日経トレンディー7月号で特集された「2010年上半期ヒット商品」から、4商品についてその概要をまとめたものです。

 

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 「食べるラー油」は、僅か12日間だけのTVコマーシャルがネット上のクチコミで話題となり、その後"消費者が"独自のラー油活用術をネットで紹介し合ったことによってヒットしました。

 マクドナルドの「ビッグアメリカ」は、発売前にブロガー向けの試食会を開いて事前にネット上にクチコミ情報をあふれさせ、販売開始前から消費者の期待感を煽り、本格販売の開始後もツイッターを利用した話題喚起を行ないました。

 ホンダの2人乗りスポーツクーペ「CR-Z」は、クルマ離れの若年層に向けてSNSのmixiを活用し、CR-Zが当たるキャンペーン参加者のニックネームにCR-Zを入れさせました。mixiではニックネームを変更すると、登録している「マイミク」全員へ通知が流れるので、1ヵ月半の期間に82万人もの参加者を集めることができました。

 「お手軽本」は、掲載されている短文の格言や人生訓がツイッター利用者に活用され、ドラッカーやニーチェというお堅い題材を扱った書籍にもかかわらずベストセラーに入る売上をあげています。(「もしドラ」は7月22日現在で合計売上100万部を超えました。)

 これらは文字主体型のインターネット媒体の活用事例ですが、これからは映像媒体も含めた活用法へと発展することが予想されます。マーケターとして大切なことは、まだ他人がやっていない、目新しくて注目される手法を、自らが発想して開拓していくことにあります。

 

終わりに:

 本格的デジタル時代に有効なコミュニケーション・ツールを見つけるためには、まず消費者の動向を充分に把握することが必要です。ブログ・SNS・ツイッターなどの文字情報をはじめ、YouTubeなどの画像情報も分析・解析し、消費者の関心やトレンドが何かを知る必要があります。ネットリサーチやブログ解析サービスなどを有効に活用して、変化を続ける消費者像や消費者行動の把握に努めてください。

 

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