現代マーケティングをパワフルに支える、ネットリサーチの本質

執筆者:株式会社ユーティル シニア・リサーチ・コンサルタント 紺清 朗生(こんせい あきを)

 

モノが売れない時代だからこそ、次の一手のために健全な投資を継続していく、これこそが今、企業経営やブランド管理に求められています。想像以上にめまぐるしく変化する市場環境に対応したマーケティング活動への継続的な投資が、ブランドをフレッシュに保ち、お客様の興味を喚起し続けさせると共に、新規顧客獲得の原動力となるのです。

 そして、ブランド管理における資源配分の戦略を描く上で忘れてはいけないのが、マーケティングリサーチの役割です。ところが、費用対効果が理解され難いからなのか、多くの企業でリサーチ費用が広告宣伝・販促費と共に、削減され易い予算の一つになっているようです。こうした厳しいビジネス環境の下、ITインフラの発達と整備が生み出した「インターネットリサーチ(以下、ネットリサーチ)」がマーケティング活動を効果的、かつ、効率的に支えています。何故なのでしょうか?

 

日本の市場調査とネットリサーチ

 日本の市場調査業界全体の売上は、2009年度に1,672億円(日本マーケティング・リサーチ協会)を達成していますが、その62%を占めるのが一般的に“Ad-hoc(ラテン語で、特定の目的のためを意味する)調査”と言われる単発型調査です。この調査分類には郵送、電話、会場、そして訪問面接調査など、皆さんが一度は耳にしたことのある調査手法が含まれます。そして、それ以外の33%を占める“パネル調査”と言われる調査手法にはテレビの視聴率調査や小売店売上調査、また、生活者の購買実態をリアルタイムで追跡するPOSデータパネル調査などがあります。

column5_a.jpg

パネル調査:“パネル”とは、調査対象として固定され、特定の母集団を代表する対象者の集合のことを意味し、Ad-hoc調査とは異なり、同じ個人・世帯・事業所などに対して継続的に調査を続けることで、パネル内に起こる変化を時系列に観察したりする調査手法です。)

 以下の表はAd-hoc調査の手法別シェアを示していますが、この中で一番大きいのがネットリサーチで、2009年度ではAd-hoc調査全体の36%を占めるまでに成長しています。

column5_b.jpg

 90年代半ばから開発が始まり、90年代の終盤に新規の調査手法として事業化されたネットリサーチは、パソコンやインターネットの普及と共にこの10年間で飛躍的に成長しました。その反面、21世紀に入るまで長い間、市場調査の中核的な役割を担っていた“訪問面接調査”、“郵送調査”、そして“電話調査”などは生活者のライフスタイルの変化やIT社会の到来でその規模を半減しました。ネットリサーチは拡大し続け、多くの企業で利用されていますが、何故この様な状況が生まれたのでしょうか?マーケティングリサーチの現場から、ネットリサーチの本質を探ってみました。

 

I.ネットリサーチの仕組み

 ネットリサーチとはその名の通り、インターネット環境内で実施される調査(アンケート)のことを言いますが、ここでは企業のサイトやブログの中に見受けられる簡単な意見収集や設問、例えば、ブログ内で提供しているサービスやQ&Aに対する満足度、或いは地元の天気や支持政党などを答えさせるタイプを除きます。

  ここで言うネットリサーチとは、市場調査会社などが自社で開発した調査モニターパネル(調査に協力する事を前提に、事前に登録された調査モニター集団)、或いは、提携先が所有するインターネットユーザーパネル(インターネットサービスプロバイダー等が管理し、必ずしも調査協力を前提としていない集団)に対し、メールでアンケート協力を依頼、アンケート専用サイトで回答してもらう調査手法です。従来、マーケティングリサーチの多くは、インタビュアーが電話や家庭訪問、或いは、街頭や会場で対象者に対し面接を行い、回答を質問票(アンケート用紙)に書き取る形の“面接式インタビュー”が主流でした。

  またこれとは別に、郵送調査や日記調査などで使用される、“自記入式”と呼ばれる、アンケート対象者自身が自分で質問票に記入する方法があります。ネットリサーチは、郵便ではなく、インターネットメールで送られてきたWeb画面上の自記入式アンケート用紙に回答する調査手法と考えていただければ宜しいかと思います。

  そして、ネットリサーチの革新的機能は、以下に説明する従来型の調査手法で必要とされている多くの要素をコンピュータ・サーバ内で全体管理できることです。これによって、諸々のプロセスにおける調査員/作業員の手間が大幅に減り、はるかに短時間でデータ収集と処理が可能になり、また、データ集計や解析にミスが出にくくなったことです。要するに、アンケート実施期間とデータ集計時間の大幅な短縮と作業コストの削減が可能となったのです。

【従来型調査手法に欠かせない要素】

 

◆ 紙ベースの“アンケート用紙”を作成する。

◆ 面接のために、“インタビュアー”が必要(郵送調査などを除く)。

◆ 回収した回答を集計(コンピューターに入力)する手間がかかる。

◆ 電話や郵送調査では、回答者への“謝礼を送付する”工程が必要。

◆ アンケートで使用するコンセプトシートや商品写真など、リサーチ用素材を“多く作成する”必要がある。

  

II.ネットリサーチの特性

column5_c.jpg IT環境整備がパソコンの普及やインターネットユーザーの増加を導き、ネットリサーチ普及の合理性が生まれたわけですが、 その隆盛の背景には従来型の調査手法にない様々な特徴があります。前項で触れましたが、従来型調査とネットリサーチの大きな違いは管理プロセスにおける手間と時間です。この要素が費用や管理プロセス全体に反映され、現代マーケティング管理が求める意思決定スピードと合理性に合致したのです。ネットリサーチの特徴を従来型調査手法と比較してみると;

◆ 低価格:同じ調査スケールで比較した場合、5分の1以下。

  • 対象者数200名程度の訪問調査で数百万円かかっていた調査が数十万円で実施可能に!

◆ スピード:調査を実施してからデータ集計まで、数週間から1カ月程度かかっていたものが、1週間程度に短縮!

◆ リサーチ対象者:

  • 大量の対象者(調査サンプル)に対し一時に調査が可能に ⇒ 100サンプルでも、50,000サンプルでも機械的に送受信可能。
  • 絶対数が限られた、特別な条件を持つ対象者を探し出す事が容易に ⇒ 例えば、高級車の所有者が全人口の0.5%であっても、理論的には10,000人に対しメールを配信すれば、50人の該当者が見つかる。

◆ 簡便:

  • 調査対象者の都合で何時でも参加する事が可能 ⇒ 従来は、調査員が訪問、或いは電話をかけた時に対象者が在宅していないと調査が出来ませんでしたが、ネットリサーチでは、メールで依頼状を送っておけば、対象者が何時でも自由に回答できる。
  • 作業工程の殆どがWeb上で行われるが故に、アンケート用紙やリサーチ結果(データ)の転記ミス等が少ない。
  • 簡易パッケージ型のネットリサーチを使用すれば調査のプロでなくとも、ある程度の品質の調査を自分で管理することが可能。
  • アンケート協力への謝礼がネット上で行使できる“ポイント”などで可能。

 これら特性の相乗効果によって、ネットリサーチは革新的な価値を市場に提供しているのです。但し、これはあくまでも客観的に各要素を組み合わせた場合のことであって、調査目的や対象者条件、或いは調査内容によっては必ずしもネットリサーチが従来型の調査手法に勝っていると言えるものではありません。この件に関しては後半部分で触れたいと思います。これらの特徴が昨今の社会(One-To-One情報交換システムの拡大)・経済(世界的な経済不況に端を発する支出マインドの冷え)環境の変化の中で受け容れられ、ネットリサーチが躍進を続けて来たものと思われます。従来型の“時間とコストがかかる調査”が、IT時代の“スピードと情報交換の仕組み”の中でマーケティング活動を続ける企業ニーズに合致した手法に移り変わって来た事は自然な成行きであったと思われます。

 ネットリサーチの創成期にいち早く顧客となったのが、時間やアイディアで勝負するTVやラジオを中心とするマスコミや広告代理店関係者でした。番組作りの情報収集に欠かせない速さと限られた予算で可能なネットリサーチ、また、広告・宣伝作品の製作に欠かせないクリエイティブ・アイディアの収集や品質管理を図る上で大切な“生活者の声”が簡便に手に入る事が歓迎されたのです。但し、この時点では市場調査の主要クライアントである消費財・サービス関連企業や調査会社の一部がネットリサーチに対しやや懐疑的でした。この辺りの事情についても後ほど触れますが、何れにしろ、時代の潮流にあったネットリサーチは拡大を続けて来たのです。

 

III.ネットリサーチのタイプ

 ネットリサーチは、“クローズ型”と“オープン型”の2種類のタイプに分類する事が出来ます。また、対象者区分により、“クローズ型”は「モニターパネル使用調査」と「個別の事業所等が保有する顧客・従業員・業者等の名簿使用調査」に分かれます。何れの場合も一定の枠の中に囲われているモニター/回答者を対象にアンケートを実施するケースで、その囲みが“パネル”、或いは“名簿(データベース)”と呼ばれています。 “リサーチモニターパネル”はポータルサイトやアフィリエイトプログラムで協力者を募集し、パネル(集団)に招きいれ構築します。募集時に、性、年齢(生年月日)、居住地(県等)などの基礎情報を収集しておき、この情報を基にサンプリング(アンケートに協力して貰う対象者集団を調査条件から特定し、調査目的に合った対象者と必要な数を抽出する作業)を行います。例えば、“首都圏に在住する20歳から35歳の男女それぞれ300名に対しある商品の使用実態を把握するアンケート”を実施する際に、パネルの基本情報を基に対象者を事前選定できる事で、集約的、かつ効率的にアンケートが実施できるのです。現在、日本でネットリサーチ事業を展開している大手の調査会社が保有するパネル内のモニター数は何処も100万人規模となっており、殆どの調査ニーズに対応したネットリサーチが可能であり、日本ではモニターパネル使用のネットリサーチが主流となっています。

 このタイプとは別に、社員満足度調査(ES)や顧客満足度調査(CS)など、市場にオープンされていない特定の対象者に対してアンケートを行う場合、調査依頼主が保有する「従業員・顧客・業者等の名簿」の中で調査が行われます。このケースでも、調査会社が開発、保有しているネットリサーチ管理システム(プログラム)をASPの形で使用する事で、ネットリサーチの特性を活かしたアンケートが可能になります。

 “クローズ型”に対し“オープン型”は、読んで字の如く、不特定多数を対象にアンケートを実施するケースで、例えば、Webサイトにネットリサーチのリンク先を記載して参加者を誘導、或いは、簡単な質問をサイトに直に貼り付けて実施する場合などがあります。何れの場合も、特定のWebサイトを閲覧している対象者だけが参加できるアンケートであり、参加者の性/年齢など、基本属性分布が偏る場合が見受けられます。オープン型ネットリサーチは特定の販売促進キャンペーンの参加者から意見を聞きたい場合などには有効ですが、この様なアンケートの結果から、「日本人女性の30%が○○○商品を好んでいる」などと言った結論を導きだす事は乱暴かと考えます。

 

IV.ネットリサーチでできること

 従来の訪問面接調査や街頭アンケート、或いは電話調査や郵送調査など、アンケート用紙が必要な調査であればどの様なタイプもネットリサーチに置き換える事が可能です。そして、大量の調査モニターをパネル内に持っている利点から、従来の調査手法では時間や手間、そして膨大なコストを必要とする“重たい調査”が、ネットリサーチでは容易にできるようになったのです。ここでは、ネットリサーチだからこそ効率的に出来るようになった調査の例を紹介すると共に、従来、インタビュアーが調査対象者の回答状況を判断、適宜調整をしながら質問を進めていた、“人間の業”がネットリサーチでどこまでカバー出来るようになったのかなどを紹介します。先ずは、調査の効率性ですが;

  • 特定条件の対象者に絞り込んでアンケートを実施したい ⇒ 例えば、オープンカーを所有している 30〜50歳代の男性100人によく行くドライブの場所を聞きたいとき、従来であれば不特定多数に街頭、家庭訪問、電話などでコンタクトして、先ずは性/年齢確認、所有自動車の種類、そして漸く本題に入れましたが、ネットリサーチでは;
    • モニターパネルの基本情報に既にそのデータがあれば、ピンポイントで対象者を選択しアンケートを送信できる。
    • モニターパネル情報になくても、おおよその出現率(例えば、0.3%)情報があれば逆算して、33,000人に事前アンケートを実施し、該当者100人を見つけ出し本調査に入ることが一気通貫で可能。
    • 最悪、出現率データが全くない場合でも、出現率を知るための簡単な調査を事前に実施する事で効率的な絞り込みが可能。

 この革新的な便宜性によって、富裕層向けやニッチな対象者向けの商品開発などがしやすくなったのです。

 次に、インタビュアーがいないのに面接式に近い形で質問が出来る仕組みですが;

  • アンケート内で回答パターンに応じて質問を絞る、回答の矛盾を指摘する、質問の対象となる商品などの写真や動画を提示する仕組みをプログラミングできます。
    • 質問数が全部で50問のアンケートだとしても、特定の対象者(例えば、競合ブランドであってもあまり売れていない商品の愛用者に対し詳細な質問をする必要がない場合など)にすべての質問を聞く必要がない場合、回答する必要のない質問を自動的に飛ばし、実際には25問の回答で済ませるロジックが組み込める。
    • 同じ様に、既に回答した内容に従って、その後の質問を絞り込んで聞く。例えば、“よくない”と回答した人だけに、次の質問でその理由を聞くなど。
    • 回答の矛盾や回答ミスなどを指摘して、前の質問に戻り訂正してもらうことが自動でできる。例えば、ある質問で「このタイプの商品は何も使っていない」と答えたにも拘らず、別の質問で“使っている人のみが答えられるもの”をあげているケースや、選択肢を飛ばした場合など。
    • 勿論、“一つだけ選んでください”と指定した場合に複数の答えを選べない様にするなどの基本操作は、当然組み込まれている。
    • また、アンケート内で写真や動画を提示することができる。例えば、ブランドのパッケージ写真やテレビコマーシャルを見せて評価してもらうことが可能。

 ネットリサーチのスピードですが;

  • アンケートを実施中であっても、回答状況をWeb画面上でリアルタイムに追跡・確認することが可能です。新商品を発売した後の消費者の反応をいち早く知りたい場合などに最適です。
    •  アンケート参加者の回答状況(回答者数や回答者属性なども)をリアルタイムに確認することができる。
    • また、アンケート途中であっても、それまでの回答結果(データ)を集計し、分析することもできる。

 その他、海外にあるアンケートサイトにパネルを誘導することや、多国間調査も各国のパネル、多言語に対応したアンケートサイトや翻訳能力があれば、日本に居ながらにして何カ国での調査も可能になりました。海外向け製品開発や、海外進出前の事前調査が手軽にできるようになりました。

 

V.ネットリサーチのチャレンジ

 ネットリサーチはその合理性から画期的な調査手法として現代マーケティングのサポート役として重要な位置づけを担っていることを説明してきましたが、先程触れた、ネットリサーチの課題、つまり、初期段階でなぜ一部の企業や調査会社がネットリサーチに懐疑的であったのかを簡単に説明します。もっとも大きな理由は「回答者が調査対象者の母集団を代表出来ているかどうか?」ということでした。市場調査業界では、特に「パネル調査」では、回答者の母集団に対する代表性ということが常に重要視されてきました。

 例えば、“20歳〜64歳の日本人男性500人に聞きました”といった場合、実際の人口を代表させるには500人の内、20代が95人、 30代が120人、40代が110人、50代が110人、そして60歳から64歳が65人いなければ意見が偏りますが、10年前のインターネット利用者人口は若年層の比率が高く、ネットリサーチ結果は若年層の考え方を反映する傾向がありました。少し極端ですが、ネットリサーチモニターパネルの中身は“オタク集団じゃないの?“と言われもしました。また、大都市と地方都市でも当初はネット人口の構成比率に差があり、政党支持率調査、或いは選挙予測をネットリサーチで行った場合と従来の手法で行った場合、結果に違いが表れたことがありました。ネットリサーチだと民主党が強いが、従来型リサーチだと自民党が強いといったような事です。但し、現在のパソコン普及率とインターネット利用率を掛け合わせると、日本の80%以上の世帯でパソコンでのインターネット利用がなされていることから、ネットリサーチの信頼性はかなり高くなっていると言えるでしょう。

 また、ネットリサーチモニターパネルには調査モニターになりたい人たちだけが参画していることは事実ですし、この方々の意見が全体像を反映しているのかといった疑問や課題は今も存在します。国の機関で行われた従来型調査手法とネットリサーチの結果比較・検証では、質問内容にもよりますが、「意識面に関する回答にはあまり差がなく」、「行動面ではネットリサーチの方がやや行動的ではない」などの結果もあるようです。これらの課題を解決、或いは補うために、全体像に近い対象者集団内で調査ができる様に調査設計を行い、回収予定数を地域、性、年齢などで割付けることを的確に行えばよいのです。但し、代表性の担保を厳しく問う世論調査だけは、方法論的には今後も従来の面接や電話を用いての調査が続けられていくだろうと思われます。

 最後になりましたが、幾つかのチャレンジが残されているとは言え、“適切な価格でスピーディ”、その上“大量サンプルや特殊な対象者を使用した調査が可能”なネットリサーチの優位性は、時間と効率を追求する現代マーケティングにとって欠かせないツールであることに間違いはないでしょう。リサーチ手法それぞれに付随した課題を十分留意した上で、ネットリサーチの優位性を活かしたマーケティング管理を実行していただけることを祈念しております。

 

▲このページのトップに戻る