“買ってくれるお客様と商品”を見極める!!〜データベースマーケティングの現状と可能性〜

執筆者:株式会社ユーティル 代表取締役社長 打田 光代(うちだ みつよ)

 

 日本人(20歳以上)の通販利用経験率は95%を超えるといわれています。私も、アマゾンから送られてくる“レコメンドメール”に対し、定価も確認せずに即決して購入しまうことがしばしばあります。コンビニエンスストアとは違う形の便宜性が生活者の購買行動を変革し始めたのです。これはまた、私たちのほとんど誰もが商品購入時に販売者に対し自分自身の個人情報を開示した経験があることを意味します。こうした販売/購入プロセスから生まれる情報Transaction Data/InformationはどのようにデータベースDatabase内で処理され、今後、どのような進化を辿るのでしょうか。生活者の欲求が技術革新によって新しい購買トレンドを生みだし、また、販売者側のマーケティング管理に大きな変革を呼び込んでいるのです。多くの企業が膨大な顧客データベースを保有し、CRMの中核として顧客の購買履歴から将来の購買を予測し、計算の出来る確実なマーケティング戦略を展開し始めました。

CRM: Customer Relationship Management ⇒ 顧客満足度向上のため、顧客との関係構築に焦点を置く経営手法)

 

データベースマーケティングの原点

 データベースを基軸に総合的な販売を繰り広げる楽天やアマゾンが、グーグルやヤフーといった情報メディアを凌ぐ勢いで近年株価を上昇させています。インターネットが一般メディアとして脚光を浴び始める10年以上前の1980年代、米国では既に“データベースマーケティング”という概念に注目が集まり始めていました。生活者の志向が多様化し、マスマーケティングの有効性が疑問視され始めた頃と時期的に符合します。“製品を作っていれば売れる時代” が終焉を迎え、初期のマーケティング概念、“生活者の求める、売れる製品を売る時代”の先を行く、“いかにして、より効率的にモノを売るか”ということを強く意識し始めた時代とも言えます。当時の日本は、まさに現在の中国さながらに、国内で膨張した資産インフレを背景に好景気を謳歌し、強い円を元手にニューヨークのロックフェラーセンタービルまでも買収し得ていた時代です。この頃既に、迫り来るデフレ不況に備え一度取り込んだ顧客を逃がさないことが安定収益の基本であることに気づいた米国市場の先進的なマーケティング・イノベーター達は、水面下で着々と発達する通信システムとコンピューターのCPU技術革新を背景に、先進的なシステムと画期的なデータベース管理を駆使した新たな経営管理、或いは、マーケティング手法を模索し始めていたのです。

 “マーケティング:Marketing“という言葉に端的な日本語訳がないことにも象徴されるとおり、日本は多くのマーケティング手法を欧米から学んできました。データベースマーケティングについても、80年代の半ばに荒川圭基(あらかわたまき)先生が、米国での予兆を研究し、「データベースマーケティング:ダイヤモンド社 1985年刊」という著書で、新たなマーケティング概念を世に送り出しています。私は当時、この”顧客の購買履歴をベースにしたダイレクトマーケティング “という、それまでの流通プロセスを破壊してしまうような画期的な概念に出会い、頭にハンマーを食らったような衝撃を覚えました。なぜなら、生産者が生活者と直接結びつき、多くのニーズをダイレクトに吸い上げることができるようになったら、我々のような調査機関の存在意義は消滅するのではないかと感じたからです。さらに、生産者、あるいは販売者が国境を越えて保有する購買者リストから購買履歴を管理し、データマイニング(1)することで生活者の購買パターン(購入者属性、購入商品の種類、購入方法、購入時期、購入数など)を理解し、将来の需要までをも予測できるようになってしまったら”市場調査の必要性がなくなってしまう“という危惧を抱いたからです。

 コンビニエンスストア業界最大手のセブンイレブンが、“単品管理”という名の下に膨大なPOSデータ解析から商品の流動性や寿命を判定し、定番商品改廃の判断に取り入れて事業効率を最大化してきたことは有名な話ですが、個人情報との紐付けがされている“顧客の購買履歴情報に基づくデータベースマーケティング”は更に先をいく概念であり、この手段を手に入れた者が世界経済の覇者になるとさえ思えました。それから四半世紀が過ぎましたが、“データベースマーケティング”はどのような進化を遂げたのでしょう。


 

(1)データマイニング:様々なデータ解析技法を駆使して、大量のデータから有用な情報を取り出す技術。マイニング=Miningとは採鉱の意味

 

データベースマーケティングの“低くて高いハードル”

 現在、自社で保有する個人情報を基にお客様に直接コンタクトをする事ができる企業は無数にあると思います。しかしながら、お客様との頻繁なコミュニケーションを通じて相互に情報交換を図り、吸い上げたお客様のニーズを具体的なアクションにつなげている企業は実際にどれだけあるのでしょうか。せっかく貴重なデータベースを持ちながら一度もメンテナンスをすることなく、個人情報の取扱いに厳しい管理を求める“個人情報保護法”の下、第三者への情報漏洩などの危険を回避する意味からデータベースの廃棄を繰り返している企業も少なくないと伺っています。

 CDやDVDなどのレンタル・販売会社、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)は、「顧客に的確なレコメンド(2)を行うノウハウを、多くの顧客情報を抱える企業に提供する」ことを事業目標の一つにおいていると聞きますし、ロイヤリティマーケティングが運営し、ローソンなどで展開している共通ポイントサービス“ポンタ”の事業コンセプトの背景にもそのような意図が反映されているように思えます。しかしながら、何れも発展途上にあると思われ、初期の目標達成が成されているかは定かではありません。一小売業者が取り扱える製品数に限りがあるにもかかわらず、移ろいやすい生活者の購買行動に振り回され“雨後のタケノコ”のごとく新商品がデータベースに流入してくる状況の中で、十分に時間と目的意識を持ってデータを解析する余裕はないのかも知れません。逆に、膨大なデータをメンテナンスするコストに対し経営管理上の制約が生まれることから、進歩的な“データベースマーケティング管理”が完成しづらいのでしょう。大きな発想の転換が必要かもしれません。

 あまりに多くの説明変数(3)が存在する為に、ひとつの新製品が売れるのか売れないのかを人間の頭で考えきるには限界があります。新製品やサービスの開発では、多変量解析(4)を用いたデータマイニングをはじめ、取るべき手段の最適化を示唆してくれる分析手法を駆使して“売れるモノ作り”の試行錯誤を繰り返してきたのではないでしょうか。しかし、残念なことにいまだに完全なアルゴリズムが発見されたというニュースを耳にしません。商品の購入履歴から、“購入者と商品”のシンプルな相関係数をもとにレコメンドをインプットするにとどまっています。

 25年前に日本に初めて“データベースマーケティング”を紹介された荒川先生は、「膨大なデータを持ちながらも宝の持ち腐れになり、本質的なデータベースマーケティングが展開できていない理由」を以下のように挙げていらっしゃいます。

 『この膨大な顧客データを活用している小売業はまれ。データを収集しているのに活用していないのが現実。 活用しない理由3つをあげてみる。
 1つは、そもそも数値に隠されている意味を読み込んで状況を把握しようとする"意志"がないこと。
 2つは、データが多すぎてじっくりデータを見る時間がないという理由。
 3つは、はじめて経験するデータなので何をどのように理解し、どのように行動すればよいか分からないという理由。

 従業員の意識の低さは"会社の意識"の低さが原因になっている。トップが率先しないことが大きな原因。データ活用は難しいことではない。はじめて自転車に乗ることと同じだ。自転車に乗れるようになるには朝夕お父さんやお兄さんの力を借りて一生懸命努力する。転んでも、転んでも何度も練習を繰り返す。この最初の努力がどうしても必要。あるとき不意に乗れるようになる。乗れるようになれば後は簡単。いつでもどこでも簡単に乗れるようになる。人の手を借りる必要もない。重要なことは「自転車に乗りたい」という強い願望。同じように「データを読み込めるようになりたい」という願望があればデータを使いこなせるようになる。データマイニングなど難しい統計分析手法は必要ない。「電卓で検算できる」という単純な情報を用いるだけで十分である。』

 今、CRMの実行にあたり“データベースマーケティング”に真剣に取り組んでいる企業の多くは、3つめの「何を、どのように理解し、どのように行動」すれば良いかがわからないがゆえに、成功のための変数の発見と因果関係の公式を描き出せずに膨大なデータベースを前に立ち尽くしているのではないでしょうか。

 

データベースマーケティングが持つ2つの意味

 読者の皆さんは、自社製品について以下の指標や数値を意識的に捉えたことがありますか。「当たり前ではないか、それがなくしてどう戦略を立てるの?」、そう思われた方はこの後をお読みいただく必要はないかもしれません。「いや、そんな数値があればこの先を占うことができるかもしれないけど、どうやってそれらの情報を手に入れたらいいのかわからない」、或いは、「そんなことを考えたこともなかった」と思われた方は、ぜひこのまま最後までご通読ください。

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 “データベースマーケティング”には、顧客データをデータベース内に保管してダイレクトに販売につなげるCRM戦略の実行手段を意味する場合と、マーケティング活動に必要な情報をデータベース化して今後の戦略策定の礎にする考え方の二通りあります。現在はインターネットという万能のツールを得て、Eコマースが当たり前の時代になったため、前者を意味することが多くなってきていますが、前述の荒川先生が言われる、「何を、どのように理解し、どのように行動するか」の理念を持って、マーケティング戦略上必要な基本指標を明確に定義し活用できるかどうかが効率的経営を支える要諦だと考えます。

 本稿では、“データベースマーケティング”を広義にとらえ、自社の商品やサービスを成功させるためのメカニズムを明らかにする基本指標について話を進めていきたいと思います。上記に掲げた基本指標は、皆さんが定期的に健康診断を受け健康状態やメタボの判断を測定する際に必要な、年齢、身長や体重、血圧、肝機能、コレステロール値などの閾値(いきち)と同じようなものです。要するに、“データベースマーケティング”とは、自社の商品やサービスが成長過程にあるのか、既に瀕死の状態に近いのかなどを多角度からチェックし、どのような状態のときに何をすべきかを確認できる、そして、これらの指標を集約管理することの重要性を示す言葉でもあるのです。

 大型汎用機の時代が終わり、PCが膨大なデータ処理能力を供えている時代です。その気になれば、日々のビジネスで収集しうる情報をデータベースとして保管し、取るべき最適な経営手段をデスク上で取り扱うことができるのです。また、必要となる基本指標の多くはインターネット上で簡単に手に入れることもできます。まずは皆さんのビジネスを支えるデータベースの構築にチャレンジをしてみてください。手に入れることが難しい指標は、インターネットリサーチなどを利用して適切、かつ効率的に収集すればよいのです。


 

(2)レコメンド:EC(Eコマース)サイト利用者の、購買履歴と関連性のある商品情報を提供して更なる購買を誘う手法。“この商品をお買いになった方は、こういった商品もお買いになっています”といったメッセージを表示する

(3)説明変数:統計学等で使用される用語で、物事の原因とも捉えられますが、ある結果を予測/説明する要因=変数のこと。例えば、「新商品の成功の有無=結果」を判定するために、(1)価格、(2)味、(3)パッケージ、(4)ブランド名等を説明変数として解析する

(4)多変量解析:複数の結果変数からなる多変量データを統計的に分析する手法で、主成分分析、因子分析、クラスター分析などがある

 

インターネット時代のデータベース構築と活用の心得

 インターネットサーフィンによって、ウェブ検索から必要な指標を探すこともできると述べましたが、本章では、注意しなければいけないデータ活用上の心得を示したいと思います。

 まずは、先に示した基本指標の例をご覧になって、「平均とは何を意味するの?」、「競合商品はどう定義するの?」、或いは「自社の指標にはもっと違う数値が重要だ!」と思った方も多くいらっしゃることと思います。自社のマーケティング活動を適切に行う上でどのような指標が必要なのかを知ること、そしてその指標の意味するところを明確に定義づけることが落とし穴にはまらないための大事な一歩なのです。多くの企業では売上高、粗利率、経常利益率、ROIなど、経営の健全性を判断するためのKPI(Key Performance Indicator)(5)を明確にされていることと思います。“データベースマーケティング”とは、マーケティング管理上のKPIを明確化する重要な役割を持つと理解してください。以下はデータベースを構築、活用する上での基本的な心得です。

 

1,信頼できない情報を指標としていないか!

【解決策:信頼できる情報かどうかの判別方法を知る】
 世の中には廃棄物と同様レベルと思われるものを含め、情報が無数に存在しています。しかし、使用済み携帯電話のIC基盤の貴金属やレアメタルのように、廃棄物も扱い方ひとつで宝物に変わることがあります。情報の扱いも同様に、“宝の取り出し方のテクニックや基本”を身につけているか否かでその価値や結論が大きく変わり、時として非常に危険なことにもなりかねません。データソースや、使用した質問票も全く違う調査結果(指標・数値)を単純に時系列比較して、トレンドを論じている人をたまに見かけます。使用するデータがそれぞれに比較可能なものや、或いは、品質の検証がなされているものなら良いのですが、多くの場合、そこに大きな課題があることに無頓着なのです。データ分析する前に、データ(収集時期/方法/対象など)の出所や品質を明確に理解していることが絶対に必要だと心得てください。たとえば、「昨年に比べ、働きたい女性の比率が10ポイントも上がった」という記事があったとしましょう。昨年の調査が首都圏に住む20代〜30代の派遣社員を対象にしたアンケートの結果であるにもかかわらず、今年のデータが日本全国の20代〜60代までの主婦の回答だとしたらどうでしょうか?読み物のキャッチコピーとしては目を引くかもしれませんが、女性の労働実態や将来の動態を予測するための指数として使えないことは一目瞭然です。

 

2,数値の動きの誤差に右往左往しない!

【解決策:時系列情報で信頼に足らないデータは、積上げ値(移動合計/平均値など)を使って判断する】
 販売データを観察していて、突然数値が大きく変動し驚く事があります。常に販売数量が大きなものは数値があるレベルで安定しているので宜しいのですが、週に2〜3個しか売れていない商品に突然の動きがでると、市場で何が起こっているのか判断に戸惑うことがあります。多くの場合、流通側が行った特売セールや折込みチラシ、或いは、広告や販促キャンペーンの実施が売上に影響しているのですが、特別な事をしていない場合の変動の分析には神経を使います。それらの変化を今後の動向の予兆と取るのか、或いは、データの誤差範囲ととるかを判断するには、普段からデータの傾向値に対する注意深い観察と理解が大切です。そこで、単月単位での数値変化に目を配ると共に、移動推移値から傾向(上昇/下降)を判断する分析手法が役立ちます。突然変動する数値を鵜呑みにせずに、長期で情報を見ていく辛抱強さと慎重さが大切です。

 

3,定量情報に頼りすぎて、新たな予兆を見逃さない!

【解決策:意味ある少数意見を見逃さない。“ひとりの回答(N=1)”を大切にする】
 “N=1を大切にする”とは、大手日用品メーカーの発想として語られている有名な言葉ですが、前項と矛盾するようですが、情報を定量的に捕らえるか、定性的に捕らえるかの違いはとても重要なことです。今では大手流通業のほとんどが、売場やイベントで52週にわたり食レシピの提案をしていますが、その礎となっているのが、生活者の食卓メニューを365日、毎日調べ上げてデータベース化した、“食MAP”(6)といわれる調査データです。このデータに関して有名なエピソードを聞いたことがあります。データの動きを見ていたら、ある一人の対象者の献立にキムチ鍋がよく出現するので、他に先立ってキムチ鍋の販売提案をしたところ、生活者の注目を浴び新しい商品カテゴリーが開拓できた。“N=1”は新市場発見のための重要な考え方なのです。このデータはノイズに過ぎないと切り捨てていたら、韓流がメジャーになるまでキムチ鍋のデビューは遅れていたかもしれません。ブルー・オーシャン(7)をめざす新商品開発のためには、“N=1”の発想は非常に重要ですし、定量調査データから傾向値が読めないときに、注意深く定性情報に耳を傾けることが大切です。
 私も、100名規模の定量調査で、回答者の90%が“欲しい”と答えた新製品アイディアに対する感想を、グループディスカッション(定性調査)で改めて確認したときに、グループディスカッションの参加者からその新製品アイディアが根本から否定されてしまった経験があります。ディスカッションの参加メンバーのひとりの声が大きかったから引きずられたという見方もありますが、定量調査で回答をしてくれた100名の評価者達の商品に対する関与度が低かったことが理由でした。つまり、自分にとってこの商品がどのような意味にあるのかといった点を真剣に考えてくれずに、瞬間的に反応して回答された定量情報は時としてマーケティングデシジョンのノイズになることもありうると言うことです。

 

4,一通過点/断面の数値で判断しない!

【解決策:マーケティングは日々変動する。継続的な情報整理とトレースが重要】
 ある時点でみた販売指標は健全性を示していたにもかかわらず、思ってもいなかった競合品が急激に売れはじめ、一気に自社商品のシェアが落ち込んだという話を耳にすることがあります。特にBUZZマーケティング(8)が盛んな現在、IT環境下で瞬時に広がる口コミの結果として、特定の商品が爆発的に世界中に広がることがあります。マスコミの報道によってこれほどまでに政府や政党の支持率が乱高下する日本人の気質にあっては、昨日まで大丈夫だと高を括っていても明日には突然崩壊することもありうるのです。大いなるオセロ時代、自社の情報だけではなく、競合や他業態、他カテゴリーのヒット情報を常にウォッチする心構えが成功への大きな秘策といえましょう。


 

(5)KPI:重要業績評価指標とは、組織や個人の目標達成状況を評価するために設定される優先順位の高い業績評価指標

(6)食MAP:「食卓 Market Analysis & Planning」の略で、食卓を市場に見立てたマーケティング情報を365日観察することで、誰が・どこで・何を買い・いつ・どんな食卓で、どのように調理して食べたのかを知ることができる情報 ← 株式会社ライフスケープマーケティングの解説から

(7)ブルーオーシャン:INSEAD教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュによる共著のタイトル、『ブルーオーシャン戦略』(ランダムハウス講談社)にでてくる表現。企業が生き残りをかけて争いを繰り広げる既存の市場を「レッド・オーシャン」、競争者のいない新たな市場でまだ生まれていない未知の市場空間を「ブルー・オーシャン」と名づけている

(8)BUZZマーケティング:“BUZZ”は英語で騒音を意味する言葉で、最近では口コミを意味するマーケティング用語として使用され、この口コミを活用したマーケティングをバズ・マーケティングと呼ぶ

 

最後に、あるいはこんな方法も・・

 日本の統計調査分析の草分けでもある故後藤秀夫先生は、ご生前、需要予測モデルづくりに何度も挑んでいらっしゃいました。“データベースマーケティング”に限らず、「いかにしてコストを抑え多くの売上をあげるか」を考えることもマーケティングの基本目標です。後藤先生は、流通業や製造業が供給すべき最適な商品数を事前に把握するためには、現実的な需要予測モデルが必要であることに着目し、生活者の商品購買行動に影響を及ぼすファクター(説明変数)を集約して、そのバランスを最適化することが大切であると説かれていました。そして、常に変化し続けるファクターと格闘される中で、画期的な発想を打ち立てられました。それは、「常に変化する変数を見極めるより、まだ科学では証明しきれないことを判断できる特殊な予知能力をもつエスパーを発見するほうが早いのではないか」という大胆な発想でした。特定のカテゴリーにおいて、よく初期段階でヒットする商品の価値を何らかの方法で嗅ぎ分けて購入(消費財ならリピート購入)する人(エスパー)を見つけ出し、彼らが好意的に感じる商品を開発していけばよいというものです。スタンフォード研究所のライフスタイル分析でイノベーターを見つけ出す発想に似ているかもしれません。しかし、このエスパーの発見方法が、“データベースマーケティング”の真髄なのです。大勢の生活者の購入商品についての成長曲線を分析することで、生活者集団からエスパーを発見し、その特定の生活者の今後の購買行動や商品を注視するというアイディアです。とても80歳を過ぎた方の発想とは思えない柔軟なものでした。しかしながら、この試みを承継し、成功させたという話はまだ聞こえてきません。

 また、弊社の顧問であるインド人リサーチ学者のサンジェイ・セス博士(マーケティングサイエンス)は、どのような商品分野であっても、定量調査データの回答パターンを分析することで売上向上のための説明変数を論理的、かつ感情的な見地から明確に探り出すことのできる“サイコメトリック法”を提唱しています。業界によって、また、時代によって非常に整理、説明のつき難い市場の動きを、生活者の主観を捉えているアンケート回答のパターン分析で読み解こうというものです。“エスパー発想やサイコメトリック発想”の中にも売れる商品開発のヒントが隠されているのではないかとも考えています。

 最後になりますが、“なぜ売れないのか?”と煩悶する前に、先ずは売り場で購買者の行動を観察すると共に、膨大なマーケティングデータを眺め解決のために必要な情報を整理整頓してみてください。

 

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