新商品開発とマーケティングリサーチ 〜ちょっとした技と心得で実践力アップ!〜

執筆者:株式会社ユーティル リサーチディレクター 大森 幸吉(おおもり ゆきよし)

 

 “売れない時代”だからこそ新商品に寄せる期待は大きく、熾烈な開発競争が繰り広げられています。多くのメーカーが、特に大手企業のほとんどが新商品開発のプロセスにマーケティングリサーチ(消費者調査)をうまく組み込んでいます。このプロセスが、より売れる新商品を開発するため、或いは、新商品を市場投入するかどうかの最終判断をするために必要なものであることに疑問の余地はないでしょう。ただし、リサーチ結果を鵜呑みにして開発中の新商品に手を加えすぎた結果、競合商品との差別性が薄れてしまう、また、リサーチ結果を読み間違えて売れる可能性の高い試作品がボツにされてしまうなど、実際に市場投入してみるまで結果がわからない新商品を開発してしまうリスクも同時に内包しています。本稿では、新商品開発で“失敗しないリサーチの組立て方”と“リサーチ結果の読み方の技”について論じてみたいと思います。

 

売れる商品開発のため、リサーチ結果のどこに注目すべきか?

 皆さんもご存じかと思いますが、新商品開発のプロセスにはいくつかの段階があります。企業ごとに分類の仕方や呼び方に違いはありますが、概ね以下の4つの段階に分けられます。

1. アイデア・ジェネレーション

  • 既存のリサーチデータや市場情報を参照して、市場ニーズと自社シーズのマッチングを基に市場機会を特定し、この機会の最大化を可能にする新商品をデザインする。

2. 新商品の“コンセプト開発”

  • 製品の基本機能や使用者のベネフィット、そしてネーミングを含めた新商品コンセプト案を創りだす。ここで生まれた新商品コンセプト案をリサーチにかけ、市場性の高い有力候補に絞り込んでいく過程です。この段階で受容の見込みがなければ開発の中止もあります。

3. 新商品の“実製品開発”

  • 絞り込まれた新商品コンセプトを基に、製品仕様(食品・飲料なら味覚)やパッケージデザインなどを具現化して幾つかの試作品を開発し、それらを更に改良していく段階。

4. 新商品の受容性チェック

  • 上記のプロセスから改良などを加えて1つに絞り込まれた新製品案に、売りたい価格や広告案を抱き合わせ、新商品としてどの程度受容性があるか(どの程度売れそうか)を見極める。

 新商品開発のためにリサーチが必要になるのは主に上記の2〜4の段階です。各段階のリサーチごとに使用される評価質問項目に多少の違いはありますが、ほぼ共通して使用される必須評価項目は以下の4つです。

 (1)第一印象: 商品を見て感じたこと、思ったことに対する自由回答。
 (2)好意度/魅力度: 好きですか、嫌いですか?また、魅力的だと思いますか?
 (3)目新しさ(斬新さ): 新しさを感じますか?
 (4)購入意向: 買ってみたいと思いますか?【価格を呈示して聞くのが一般的】

 リサーチで評価される対象物は、商品開発の段階に応じて、コンセプト(商品説明書)、製品の平面デザイン、立体パッケージ(モックアップ)、或いは、製品化された試作品などがあります。また、同じリサーチの中でも、対象となる要素(機能や効能)ごとに同じ質問を繰り返す場合もあります。質問への回答方法も、自由回答や5段階、7段階、或いは10段階の評価スケールを使用します。これらの使用基準は商品カテゴリーや企業の考え方によって異なっているのが実態です。
(※5段階評価スケールの例:(1)ぜひ買いたい、(2)やや買いたい、(3)どちらとも言えない、(4)あまり買いたくない、(5)まったく買いたくない)

 新商品開発の段階に応じて、リサーチ使用の比重に違いがあるものの、これらの必須評価項目の中で特に注目すべきものはどれでしょうか?

 企業が売上や利益の拡大を約束してくれる成功商品が必要であるがゆえに新商品開発を行っているわけで、“売れるか・売れないか”がリサーチ結果分析の鍵になります。要するに、購入意向で高いスコアを獲得しているか否かが最終的に重要になり、これについては皆さんも特に異論のないところでしょう。購入意向が高いか低いかの基準については、各企業で経験則からノルム値を保有している場合が多いです。例えば、“(1)ぜひ買いたい”が25%/30%以上、“(1)ぜひ買いたい”と“(2)やや買いたい”を合計して70%/75%以上であれば新商品として基準値を満たしているので実販売に向けて次のステップに入れる、といった具合です。
(※ノルム値:過去の結果の集積に基づく評価の基準値を言います。商品カテゴリーや企業ごとに違いますが、調査結果と実際の販売結果の積み重ねから成否の判断をするために策定された一定の基準値の事)

 次に、購入意向と合わせて重視されているのが、好意度・魅力度のスコアです。これは、新商品開発で方向性の自由度が比較的高い初期段階で特に重視される指標です。これについても、“非常に好き(魅力的)”や“非常に好き+やや好き(魅力的)”の値が一定水準以上であることが、次の開発段階に進むための基準として盛んに用いられています。ところが、リサーチ上で好意度・魅力度や購入意向のスコアが高い開発商品が実際の市場で売れたかというと、必ずしもそうは行かないのが実情です。リサーチ結果が良くても期待通りに売れない、或いは、最終的に販売中止になったケースもしばしば生じています。一体どこに問題があったのでしょうか?

 先に、商品開発における必須評価項目として4つあげましたが、残りの2つ、つまり第一印象(自由回答)と目新しさ(新しさを感じますか?)のデータが、新商品の可能性を最終判断する段階でおろそかにされているケースを良く見かけます。これまでの経験の中に、目新しさで高いスコアを得た商品であれば好意度・魅力度や購入意向のスコアが合格ラインギリギリ、或いは、合格ラインにやや満たなかった場合でも実際の販売でかなりの成果をあげたケースがあるのです。私は、新商品に関するリサーチ結果の中で、目新しさはもっと注目されてしかるべき指標であると考えています。

 

商品の成否を左右する指標:“目新しさ”と“第一印象”

 実際の市場では、新商品が次から次へと出ては消え、消えてはまた出てきています。新商品開発を行なっているのは自社だけに限りません、競合他社でも革新的な商品の発売のために開発が常に行われているのです。既存品でも商品ラインの拡張を行うための商品開発が行われており、各社とも限られた売場(棚)の確保にしのぎを削っています。

 そのような激しい競争のもと、実際の売場で消費者の目にとまり、店頭で手に取ってもらえるような魅力的な商品であることを確認する物差しとして、目新しさ(新しさを感じますか?)のスコアとその裏付けをする第一印象のデータは非常に意味が大きいのです。端的に言って、目新しさのスコアが高いということは、既存の商品とは違って見えるということです。言い換えれば、消費者の目にとまり、店頭で手に取ってもらえる可能性が高いということを示唆していると考えます。つまり、“売場における注目度”の先行指標といったところです。ただし注意が必要です。目新しさ(斬新感)と言いながら、実は、“あり得ない”とか“突拍子もない”というニュアンスが背景にある場合、むしろネガティブな評価と判断しなくてはなりません。そこで必要となるチェック項目が第一印象の回答内容なのです。ここで、“これまで見たことがない、ぜひ一度試してみたい”や“新鮮な感じがして面白い”といった好意的な驚きを示す回答が多ければ、目新しさでポジティブに評価されていると判断できます。

 ところで、前述した、好意度・魅力度や購入意向のスコアが合格ラインギリギリ、または合格ラインにやや満たなかったにもかかわらず、実際にはかなり売れたケースがあると書きましたが、これについては補足説明が必要です。ここでは、購入意向(5段階評価)を例にして、述べてみましょう。

 皆さんは、以下のうち、購入意向が本当に高いと言えるのは、どのケースだと思われますか?

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 明らかに購入意向が高いと思われるのは、「ケース1」です。“買いたくない:10%”という回答も少なく、理想的なリサーチ結果です。これに加えて、目新しさの評価も高ければ申し分ないでしょう。実際にこのような結果を得た男性化粧品(なんと目新しさの指標でも、80%以上が同意回答)のリサーチを行いましたが、その商品は2006年に発売されて今でもカテゴリーNO.1の売上を保っています。

 では「ケース2」はどうでしょうか?“ぜひ買いたい”と“やや買いたい”の率を足し合わせる70%とまずまずの水準ですが、“ぜひ買いたい:10%”の率が低いですね。このようなケースの場合、目新しさでの評価(同意回答率)はほとんどが40%未満です。このような商品が市場投入された場合、他社商品との激しい競争にさらされ、値引きで勝負しないとなかなか売上を確保できないという状況に追い込まれがちです。

 注目したいのは「ケース3」です。この場合、“ぜひ買いたい:35%”の率はかなり高いものの、“ぜひ買いたい+やや買いたい”の率が60%と特に高いわけではなく、逆に“あまり買いたくない+まったく買いたくない”の率は35%と他のケースに比べてかなり高いです。このような場合、“買いたくない”の率の高さが注目され、この商品の評価は賛否両論だから“売上があまり期待できないのでは?”、或いは、 “悪い口コミが出るのでは?”と考えられがちです。そこでぜひ注目して欲しいのが、目新しさでの評価スコアです。もし目新しさで高い評価(例えば同意回答率で70%以上)を得ていて、“第一印象”の自由回答でも好意的な驚きを感じているようなコメントが多く見られるのであれば、開発の継続・市場投入を真剣に検討してもらいたいと考えます。“買いたくない”という回答が多いのも、新しさ(斬新さ)ゆえに、保守的な考え方の人たちにおいて好意的には受け止められなかったという態度表明と解釈できる場合が多いです。この点については、消費に関する意識と態度に関するデータをもとに、被験者(調査対象者)をタイプ分類して集計することで検証が可能です。実際に、このようなリサーチ結果を得た商品で、2002年の発売以降、競合他社製品に揉まれ続けているにもかかわらず、未だに鮮度感がさほど落ちず、売上ランキングでも上位を維持している商品があります。

 「ケース4」の場合は、開発商品の見直しが必要です。“ぜひ買いたい+やや買いたい:45%”の率が “あまり買いたくない+まったく買いたくない:20%”を上回っているから大丈夫なのでは、という声も聞こえてきそうですが、リサーチという疑似環境においてこの程度の評価では、実際に売場に並んだ際に非常に厳しい状況に置かれるのは間違いありません。どういうことかと言うと、実際の売場では多くの似たような商品が棚に並んで激しい競合状況にあるからです。しかも、弊社の購買行動調査によると、買い物客が棚の前に立ち止まっているのはほんの十数秒でしかありません。従って、売場で商品認知すら形成できず、購入の検討対象に入らない率が高いわけです。これに対して、リサーチの現場では、被験者(調査対象者)全員に強制的に、それも多くの場合、開発商品を単独で見せ評価してもらっている違いがあるからです。リサーチデータを読む際は、この違いをしっかりと胸に刻んでおく必要があります。

 「ケース4」のようなリサーチ結果を押し切って昨年発売された商品がありましたが、現在も大変な苦戦を強いられています。TV広告、WEB 広告、新聞広告・チラシなどのマーケティング費用を相当かけているにもかかわらず、この結果です。もっとも、既存市場に競合する商品がない新規カテゴリーの場合、或いは、競合商品が希少であるといった市場環境下では、上記のような断言は出来ません。

 

 

消費者の購買行動に沿ったリサーチを組み立てる

 新商品開発におけるリサーチの質問項目はある程度定番化されています。その中でも購入意向と好意度・魅力度と合わせて、目新しさや第一印象のデータが大事だと書いてきましたが、リサーチ質問項目の設定以外に、もう一つ大切なことがあります。

 それは、売場で実際に起きている消費者の行動を念頭に入れてリサーチを設計しないと、結果的に自己満足を達成しただけの新商品開発に陥りかねないという事です。言い換えれば、消費者の購買プロセスを意識したうえでリサーチ設計を行うべきであるということです。現在開発している商品を“より成功裏に売れる完成度の高い商品にしたい”という意識が勝ってしまい、ついつい、開発中の自社商品(製品)にばかり注目したリサーチを実施してしまいがちです。開発中の試作品(2〜3品)だけを見せて評価してもらう、或いは、競合品の中から2〜3品(場合によっては1品のみ)を選び出して、それとの比較で優位に立てているかという視点での評価をしがちです。

 開発の初期段階ではこれでも良いと思うのですが、開発も中盤に差し掛かった段階ではどうでしょうか?よく考えてみてください。消費者が、店頭で新商品に注目をする、また、手にとってくれるまでにはある一定の思考プロセスがあります。ところが、リサーチではそのプロセスを端折ってしまう、つまり“注目される以前”の環境下でのリサーチを行なわず、“注目されて以降”の環境下でしかリサーチが実施されていないケースが多く見受けられます。
(※注目される以前/以降: 前項の「ケース4」の説明を参照してください。言い換えると、“気付きの前後”ということ。)

 もちろん、開発中の商品を製品仕様別に評価してもらい、それをもとに改良や変更をするためには、主に開発中の商品(製品)に注目してリサーチすることは必要です。ただし、それだけでは十分ではなく、市場(売場)での競争力をチェックするための項目を、少なくとも開発後期の段階ではリサーチの中に仕組んでおく必要があると考えます。

 商品カテゴリーによっても組立て方は変わりますが、コンビニなどで販売している一般消費財の場合は、以下のようなプロセスを推奨します。

column7_b.jpg もちろん、TVなどのマスメディア広告やWEB広告、店頭での販売促進などが新商品の認知・興味・購入意欲を喚起するために投入されていくわけですが、先ずは商品単体でどの程度の商品力(吸引力)があるのかを純粋に図っておくのが重要だと考えます。

 

リサーチを鵜呑みにしすぎない、自分たちの感性や思い入れの大切さ

 ところで、“リサーチをすればするほど角が取れて特徴のない商品になってしまう”、という声を聞くことがありますが、この意見には一理あります。私も実際にリサーチ管理をしていて、当初斬新な開発案だったものが、リサーチを重ねリサーチ結果を反映するに従って商品の完成度が増す一方、だんだんと角が取れ、売れ筋の競合商品に近づいていくのを目の当たりにすることがあります。これは、リサーチ結果を鵜呑みにして次のステップに入っていった結果だと思います。

 なぜリサーチ結果を鵜呑みにすると特徴のない商品になりがちなのでしょうか?メーカーの商品開発担当やリサーチ担当の方から聞いたのですが、「開発責任者がリスク回避のために評価の悪い点を優先的に、かつ、消費者の望むように改良していくことがあり、これを積み重ねていくと開発初期の“際立ち感”がなくなり、出来は良いが特徴のない商品」になってしまいがちとの事です。

 また、商品開発の最終段階を除き、開発途中の商品であるがゆえに“機密情報の漏えい防止”を前提にメーカー名やブランド名を明かさないでリサーチを行なっていることが影響しているかもしれません。これによって、特定のメーカーやブランドから新発売される商品という視座に立っての評価はどうしても薄れてしまい、商品カテゴリー全般から見た消費者の判断になりがちです。メーカー力やブランド力が反映されないのです。結果として、どのメーカーがリサーチを行なっても、目指すべき方向性が類似してくるという事態が発生してしまうのです。

 これは自動車(乗用車)の例ですが、ある車種の開発調査で被験者からデザイン面で特定の2か所についてのみ、“好きな点と嫌いな点”の両方で圧倒的に多くの意見が出されました。1つはテールランプのデザイン、もうひとつはドアミラーのデザインでした。そこで、嫌いと回答した人にどう改良して欲しいのか意見を求めたところ、意見は多岐にわたり、“ここがこうでないと絶対にダメ”というポイントが数量的に特定できなかったのです。これは何を意味するのでしょうか?

 先ず、“好きであれ、嫌いであれ”非常に注目度が高いデザインだということが言えます。少なくともこの車種が街中を走っていた場合、「おや?」と思わせるだけの吸引力は持っています。また、改善要望の内容が一定でないということは、そのデザインに対して「ダメだし」をしているわけではないと解釈できます。だんだん目が慣れてくれば魅力に感じる、そのような可能性を持っていると判断できるわけです。当時は、リサーチによる客観的な情報を提供する立場の人間として、これら2点での改善が求められていること、加えてどこをどう直して欲しいという意見を多い順にリストアップしてクライアントに報告しました。さて、実際に仕上がった車は、テールランプもドアミラーも確かに手が加えられていましたが、ごくわずかの手直しでした。注意深く見れば分かる、というレベルのデザイン変更でした。後日談として、開発担当としては絶対に当初のデザイン案でいきたいという強い思いと絶対にいけるという自信があったと聞きました。自社のリサーチ部門の顔を立てながら、自分達の感性や思いを具現化した例といえます。この車種は2004年に投入されて、今でもモデル別売上の上位20位以内にコンスタントに入っています。

 このように、商品開発にはリサーチデータを注意深く読み込んで確実に歩みを進める場合と、開発者の感性と情熱を大切にすることで成功する例もあります。但し、使い間違えないのない限り、リサーチは多くの有用な情報をもたらしてくれます。“売れる新商品開発”をするために、先ずは市場の出来事や生活者の行動を注意深く観察・分析すると共に、リサーチの役割と可能性を充分に理解した上で必要なステップを踏んで成功商品を世の中に送り出してください。

 

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