耐久消費財の開発とマーケティング

執筆者:株式会社ユーティル マーケティング・アドバイザー 斉藤 精良(さいとう せいりょう)

 

 自動車や家電製品のような耐久消費財の開発やマーケティングには、食品や日用雑貨といった非耐久消費財とは異なるさまざまな特徴があります。

 例えば、消費者にとっては、価格が高価なこと、商品購入後の使用期間が長いことから、商品選択は厳しい傾向にあり試し買いが期待できませんし、リスク回避型の選択を好む傾向が強くなります。

 一方、メーカー側にとっては多額の開発投資が必要なことや、商品企画に着手してから実際に市場投入されるまでの期間の長いことから、商品投入の失敗は経営基盤を揺るがす事態となります。このため、商品コンセプトの企画段階から、さまざまな検討が行われます。

 本稿では、耐久消費財の開発とマーケティングに関して、重要な視点をご紹介します。

 

1.耐久消費財とは?

 耐久消費財とは何でしょうか?
 一般には、耐久消費財とは、1年以上長く、継続的に使われる消費財を指します。耐久消費財の例としては、自動車、家電製品、パソコン、携帯電話、ピアノなどの楽器、家具などが挙げられます。
 これに対し、1回限り、あるいは比較的短期間に消費され、比較的安価な製品を非耐久消費財と呼びます。食品、飲料、化粧品、洗剤、トイレットペーパーなどです。
 では、衣類や、靴、鞄などはどうでしょうか?比較的安価なこと(中には家電製品より高い靴や自動車よりも高い服もありますが)やファッション性から頻繁に新製品に置き換えられることもあり、耐久消費財とは見なしません。そこで、半耐久消費財というカテゴリーを作り、そこに分類することもあります。

 

消費財の種類 製品例
耐久消費財 自動車、家電製品、パソコン、携帯電話、ピアノ、家具など
半耐久消費財 衣類、靴、鞄など
非耐久消費財 食品、飲料、化粧品、洗剤、服、トイレットペーパーなど

 

 

2.耐久消費財の特徴

 耐久消費財には、いくつか共通する特徴がありますが、この特徴が、企業経営やマーケティングにとって重要な意味を持つことになります。ここでは、製品開発やマーケティングに大きな意味を持つ8つの主要な特徴を見ていきます。

(1)消費期間の長さ
 乗用車もテレビや冷蔵庫も、一度購入したら、何年間かは使い続けます。乗用車の平均代替サイクルは、かつては5年くらいでしたが、現在は7年くらいに伸びているようです。
 メーカー側も、製品開発や生産設備などに多額の開発投資を行います。これを回収するには長期間にわたって販売し続ける必要があります。
 このため、思い切った冒険が難しく、ヒット商品の追随型の製品や既存商品の改良型、あるいは機能網羅型の商品を生みがちです。

(2)ライフサイクル・コスト
 何年もの間使い続けるということは何を意味するのでしょう?
 自動車がよい例ですが、購入して3年後に車検が必要になります。年間走行距離の長い人なら、タイヤ交換などの部品交換が必要になります。他にも、定期的に必要なものに、ガソリンの給油、オイル交換があり、自動車税や自動車保険を毎年支払ことになります。また、事故にあえば補修が必要になります。
 パソコンは単体では十分な機能を発揮させることができません。プリンターやモデム、無線ルーター、外付けハードディスク、DVD/CDなどの外部記憶装置などさまざまな周辺機器を買い足したり、最新のものに買い替えたりします。ソフトウェアやアプリケーションも同様です。最新のOSウィンドウズ7に替えたり、アプリケーションソフトを購入、あるいは最新バージョンにアップグレードします。もちろん、修理が必要な場合もあります。
 このように耐久消費財には、ライフサイクルを通じて保有コストがかかるのが普通です。
 これは消費者にとって、購入時のコストのみならず、ライフサイクルを通じたコストが判断材料になることを意味します。
 逆に、メーカーや流通業者の視点に立てば、製品販売時の売上や収益のみならず、ライフサイクルを通じたキャッシュフローを設計することが大切であることが分かります。
 また、長期間使用し続けるため、商品のユーザビリティ(使いやすさ)も、非常に重要になります。操作性が悪いと感じたら、購入は見送られますし、仮に購入してもらえても高い満足度は期待できず次の購入はないでしょう。

(3)購入リスクの低減という購買行動
・購入リスクとは?
 購入時のイニシャルコストが高く、所有コストもかかることは購入者にとっての購入リスクが高いことを意味します。
 故障の頻度が高ければ、修理費がかかるだけでなく、利用できない時間が発生します。
 つまり、耐久消費財の場合、購入に際しての判断基準が厳しい傾向にあり、衝動的な購入や試し買いはあまり期待できません。(ただし製品価格が数万円レベルまでのデザイン性の高い耐久消費財の場合は別です)スナック菓子やドリンク類などと違い、デザインや味、パッケージが新鮮だからといって試し買いしてくれることは一般に期待できません。

・購入リスクの回避行動
 消費者は購買行動において購入リスクを最小化する選択を行います。つまり、
 ・過去に満足度が高かった製品やメーカー
 ・評判(レピュテーション)や評価の高い製品やメーカー
 ・イメージのよい製品やメーカー
 から選択しようとする傾向があります。
 満足度やレピュテーション、製品や企業のイメージは、消費者の論理的な購入リスクを下げ、買い安心感を高める働きかけをします。
 このため、既購入者に対する満足度調査、消費者全般に対する製品や企業のイメージ調査などを定期的にモニタリングし、問題があれば対策を打つ必要があります。また、イメージ向上や満足度向上は、企業にとって重要な経営戦略に位置付けられます。

・満足度、レピュテーション、リテンション(ブランド・ロイヤルティ)
 実際の使用経験に基づく、製品やメーカー、販売店に対する満足度が、次も同じ製品あるいは同じメーカーの製品を買う大きな動機になります。メーカーや流通の側から見れば、カスタマー・リテンションであり、ユーザーの側からはブランドへの忠誠心、すなわちブランド・ロイヤルティです。
 レピュテーションは、メーカーや製品に対する世間一般の評判です。専門誌による評価、口コミ、ウェブ上のブログやソーシャルサイトなどの情報から形成されていきます。製品やメーカーの評判が高ければ、購入に対する障壁(不安感など)が大きく下がり、結果として選択されやすくなります。
 レピュテーションは、かつては、主として製品品質、それも耐久性や故障しにくさ、対価価値の高さに起因していました。今日では、製品機能、デザイン、快適性、安全性、コンプライアンス、環境対応、そしてメーカーの社会貢献活動まで、レピュテーションの形成要因は多岐にわたっています。

(4)製品イメージ
 耐久消費財の中には、購入者が自己イメージを投影しやすい製品があります。自動車や、携帯電話、ポータブル・オーディオ・プレイヤー、腕時計など、消費者の社会的活動の中で使用する機会の多い商品です。
 ベントレーやランボルギーニのような高級車、オーデマ・ピゲやパテック・フィリップなどの高級時計、超高級携帯ヴァーチュなどは、その希少性や高価格性ゆえに、所有者がどういう人物であるかを示すある種のシンボルとなります。また、同じ車でもスポーツカーを持つことは、その人にとって走る喜びを得る手段であるとともに、ステートメント(自分の価値観や主義の主張)になっています。
 シンボルやステートメントは、言語外言語であり、 言葉同様に共通の意味づけがされていますが、時代により意味づけが変化します。かつて高級車は、ステータス・シンボルとされていましたが、今日ではその意味は弱まっています。
 そうしたシンボルやステートメントの役割を果たす製品の場合、製品イメージがたいへん重要になります。製品に対するイメージが広く共有されているからこそ、その製品を所有することがステートメントやシンボルになりえるからです。
 こうした商品の場合、購入者にとってウィンドウショッピングから始まり保有期間を通じてのトータル・オーナーシップ・エクスペリエンス(保有期間中のその商品にまつわるすべての体験)が満足度に多大な影響を与えます。高価な宝飾品やブランド品の満足度は、商品に対する満足度のみでなく、どのようなロケーションのどのような雰囲気の店舗で売られているか、どのような店員がどのような服装でどのような接客サービスで応対するかが重要な役割を演じます。高級ブランドが、優良顧客や優良見込み客向けに新商品の発表プロモーションを行う際、リッツカールトンやマンダリン・オリエンタルのような超一流ホテルで開催するのは、それもまた購入者にとってのブランド保有価値のひとつだからです。
 消費者へのコミュニケーションを通じてイメージを演出することは、マーケティング上の重要な仕事ですが、コミュニケーションは広告宣伝のようなマスメディアを通じたものに限らず、ありとあらゆる販売活動で行われているのです。

(5)中古市場の存在
 耐久消費財の多くの製品では、セカンド・マーケット、すなわち中古品の市場が形成されています。
 垂直統合が進んでいる自動車業界では、この再販市場をも収益の源泉としています。単に下取りした中古車の販売を収益源のひとつにするというだけでなく、保有車の下取り価格を保証することで代替を促します。たとえば3年後の新車の残価を設定し販売価格と残価の差分のみをローンの対象とする残価設定型ローンのようなファイナンスプログラムを提供することで、新車を買いやすくしています。
 不動産の場合も、住宅の買い替え・住み替えがあり、買い取り業者、販売委託業者、住宅ローンを提供する金融機関などさまざまな会社がサービスを提供しています。

(6)ファイナンス
 耐久消費財の場合、金額が高価なこと、使用可能期間が長いこと、転売が見込めることからファイナンスの仕組みが用意されています。ローンによる割賦販売、個人向けリースといったものです。ファイナンスは、銀行や信販会社によって提供されます。住宅ローンや自動車ローンがそのよい例です。
 自動車の場合、ローン金利の一部をメーカーが補助することで期間限定の低金利ローンを提供することが、販売促進策のひとつとして広く行われています。家電量販店やテレビショッピングでも、分割払いの金利や手数料を店舗が負担という販売促進策が行われています。

(7)アフターセールスサービス
 長期間使用する製品の場合、相談や修理・交換などのトラブルがあった際の迅速な対応、購入後の保証期間の長さ、保証範囲の広さが重要です。また、修理に要する費用や、部品交換頻度の少なさ、交換部品や工賃の安さもポイントになります。
 輸入車の場合、修理費用が高いというイメージが定着し購入阻害要因のひとつになっているため、最初の車検までの3年間のメンテナンスフリー(消耗部品交換や定期点検を無償で行う)のパッケージをつけているメーカーがあります。これも購入を後押しする有効な販売促進策です。

(8)購入の契機と動機づけ
 高価な商品になるほど、衝動買いや試し買いはなくなります。すなわち、新規購入にせよ、代替にせよ、動機や契機が必須になってきます。
 買い替える契機は、さまざまです。
 家族構成の変化や転居によるニーズの変化が契機になることもあれば、ボーナスや臨時収入、あるいは政府の政策(家電エコポイントやエコカー減税)、友人や知人の薦めなどがきっかけになることもあります。もちろん、高額な修理が必要になる重大な故障が発生したり、車検の到来なども契機になります。
 ただ、買い替えの契機を迎えたからといって、買い替えてくれるという保証はありません。一般に、景気が悪ければ、生活防衛的な消費になりますので、高額な耐久消費財の購入には消極的になります。つまり、代替契機を迎えた消費者の中から実際の代替需要が発生する確率が低くなります。

 

3.商品の特性と購入者の心理

(1)商品属性のピラミッド
<コモディティ型耐久消費財の場合>
 耐久消費財にも、商品ごとの特徴がほとんどなく、商品差別化が難しいコモディティ型商品があります。ハードディスクドライブなども機能やデザインに大差がなく、顧客もそうした付加価値を特に重視しないなら、耐久性、信頼性、安全性といった基本的な品質と価格が重要な選択基準になります。
<機能重視型の耐久消費財の場合>
 商品にはさまざまな特徴(属性)があります。
 消費者は、家電製品なら数万円〜数十万円、一般の乗用車なら百万円超とかなりの金額を支払うことから、事前にさまざまな検討を行います。
 パソコンはどちらかといえば、機能性を中心に合理的な選択基準で選択する人が多い商品です。自分が求めている機能や特徴を充たしている商品を選択するわけです。
<合理的選択の割合が高い商品>
 パソコンがこの例です。
 ラップトップかデスクトップか、CPU、内蔵メモリー、内蔵ハードディスクの容量、クロックスピード、ディスプレイのサイズやスロットの数、無線LANカードの有無など機能面が主な選択基準になります。
 もちろん、初心者やライトユーザーを中心に、メーカーのブランドイメージやデザイン、色などで選ぶ方もいます。
<イメージ重視型の商品>
 逆に、宝石の場合は、機能性で選ぶ方は殆どいないでしょう。デザインの美しさ、ブランドイメージやブランドに関わる物語、どんな顧客が贔屓にしているか、販売店の豪華な内装や店員の丁重な接客、そういったモノとしての商品を超えたところに価値を見出します。
 その中間の商品もあります。時計や自動車がそうです。
 例えば、時計の場合、時間を見る道具として捉えることも、装飾品として捉えることも、ファッションの小道具として捉えることもできます。価格も数百円で購入できるものから、永久カレンダーやトゥールビヨン機構を備えた数百万円〜数千万円のもの、さらには大粒のダイヤモンドを散りばめた数億円の宝飾時計まであります。
 (※トゥールビヨン機構とは、機械式時計に搭載される機構の一つで、時計の置き方による精度の狂いで生じる「姿勢差」を克服するために発明された特殊な脱進機のことをいう)

・商品属性のピラミッドと対価価値
 このように商品にはさまざまな特徴があり、商品あるいは購入者によりどの特徴を重視するかが異なります。
  購入者は最終的にはお金を払って商品を購入することになります。このため、価格を払うだけの価値があるかを最後は判断して購入することになります。
  これを対価価値と呼びます。

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(2)商品属性のトレードオフと優先順位
 商品の特徴(属性)の中には、一方をとれば他方が犠牲になるという背反性を持つ特徴があります。例えば、自動車の高出力エンジンと燃費、スポーティな流線形のデザインと室内居住性や実用性(トランクスペースなど)です。携帯電話であれば多機能性と使いやすさは背反関係にありますし、家具であれば装飾性の高さとメンテナンスのしやすさは背反関係の一例です。
 このように明確なトレードオフ関係にある場合、消費者は自分にとっての価値や優先順位をある程度明確に意識しています。従って、比較的簡単なインタビュー調査やアンケート調査などでも、信頼できる回答が得られます。
 一方、商品属性の中には、互いに独立な関係にあるものもあります。
 自動車の例をとれば、内装デザインと燃費、乗降性とトランクスペースはほとんど関係ありません。時計の場合であれば、デザインと時間の正確さは関係ありません(ただしクロノグラフなどのように正確さ・精密さを印象づけるデザインをすることも多く、感情レベルでは相関する関係にあります)
 このような相互に独立した商品属性の場合、消費者は必ずしも自身の選択基準を明確に意識しているとは限りません。このため、マーケティングリサーチでは、コンジョイント分析などを用いて、意識下にある商品属性の優先順位を測定し、商品開発に活かしていきます。 

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(3)受容価格と価格弾力性
 高価な商品に対しては、購入者側にはその人の価値観や経済事情に基づく予算があります。
 どんなによいと思っても、予算を大きく超えて購入することはまずありません。逆に事前に考えている予算よりも大きく下回る場合、「訳あり商品」で何か問題があるのではないかと疑って購入を見合わせたり、それならひとつ上のグレードの商品を買おうかと考える人が現れます。
 つまり、消費者の頭の中には、商品に応じてその人にとって受け入れられる価格がある程度設定されています。
 これを受容価格帯と呼びます。
 受容価格帯は、競合商品の価格や類似商品の価格、同一メーカーの商品ラインアップの前後に位置する商品の価格に対する意識によって形成されます。
 ある価格、たとえば新型3Dプラズマテレビを家電販売店の店頭で43万円で販売したとします。43万円を高すぎると思う人 - つまり、受容価格帯外の人 - が多ければ需要は伸びません。
 同じ商品が38万円、33万円、そして28万円とより安価に価格設定されたらどうでしょうか?安価になるにつれて、より多くの消費者の受容価格帯に入ってきます。その結果、市場全体での購買欲求が高まり、より多くの販売が見込めることになります。
 このように価格に応じて、需要が変化する関係を価格弾力性といいます。
 一般に、価格弾力性は、受容価格帯の中では、価格が安くなるほど購入者が増えるという関係になります。

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 価格弾力性や価格受容帯は、過去の販売データから算出することも、市場調査を元に算出することも可能です。

(4)中古市場と転売価値(下取り価格)
 多くの耐久消費財には中古市場が存在し、垂直統合が進んでいる業界(自動車業界など)では、メーカーが中古市場もコントロールしていることは先に述べた通りです。中古市場をコントロールすることにより、中古製品の販売による2次収益の機会を得るとともに、商品価値の経年劣化を下支えし、新品商品の価値を維持することができます。
 定価300万円の自動車を購入しても、購入後3年経過後の市場価値が50%しか下がらなければ、実質的に150万円で購入したことになり、購入に際しての障壁が下がります。

 

4.耐久消費財の商品開発

(1)商品開発は重要な経営判断
 耐久消費財メーカーにとっての商品開発は、開発期間の長さと投資額の大きさ故、重要な経営判断を伴います。
 開発期間に3年かかる製品なら、3年後の消費者ニーズ、競合他社の動向、補完商品の動向(自動車であればガソリン価格など)、経済や社会の情勢や政治の動向(環境規制の動向、税制など)、などを予測しながら製品コンセプトを考えなければなりません。
 これを怠ると、3年かけて開発した商品が市場に投入した時点ですでに消費者に見向きもされない時代遅れの商品となってしまう危険があります。投資額が大きい場合、企業規模によっては、経営危機を招く恐れもあります。
 このため、市場調査や他社商品の試験を繰り返し、リスクを回避するとともに市場のトレンドを先取りしてヒットのチャンスをうかがいます。

(2)製品ラインにおける位置づけ、競合商品の特定
  自社の製品ラインアップの中でどこに位置づけられるのか、ターゲットとしているのはどのような顧客なのか、競合する商品はどれかを知ることは重要です。
  既存の製品ラインを無視して開発すれば、カニバリゼーション(自社の2つ以上の商品、サービス、ブランドなどが互いに競合して、シェアを奪い合う現象)が発生し、需要を自社内で食い合うことになります。
 競合商品を特定しておくことで、想定する商品力や価格の目標値を具体的に定義し、企画・開発・販売に関わる各部署でイメージを共有しやすくすることができます。

(3)消費者ニーズとセグメンテーション
 消費者はさまざまなニーズを持っています。このニーズの違いにより、消費者を分類することをセグメンテーションといいます。セグメンテーションの第一の狙いは、商品の企画・開発や販売戦略検討時にターゲット顧客を明確化することにあります。
 第二の目的としては、自社の製品ラインアップとセグメントとの適合性を検討することが挙げられます。各セグメントのボリュームに見合った商品数を投入しているかどうか、商品が未投入のセグメントがないかを確認するわけです。
 ただ同じ消費者でも、ライフステージ、製品用途、使用シーンによってニーズが変化する場合もあります。勤務中に使う時計とパーティやデートに着用する時計が異なるのは、日常的に見られることです。
 したがって、ある消費者が特定のセグメントに一義的に所属しているという考え方は今日では通用しません。
 それでも、その商品のターゲット顧客を特定のセグメントに置いて商品コンセプトやマーケティング戦略を考えることは重要です。想定顧客像とそのライフスタイル、商品の活用シーン、そしてニーズを設計・開発・マーケティング・営業といった関連各部署で共有することで、企画から販売までの数年間、同じベクトルを保ちながら数百人の人々が商品開発を進めていけるからです。
 成熟産業の場合は、各社とも数多くの商品を市場に投入しています。このため、より細かなニーズを拾うためサブセグメントを定義したり、用途や活用シーン別にセグメンテーションを行ったりする場合もあります。

(4)消費者のチョイスセットとマインドシェア
 消費者が商品を購入する際、たいていはいくつか候補商品を選んでから、詳細な検討に入ります。この候補商品をチョイスセットと呼びます。
 マーケティングの役割は、まず消費者の頭の中にあるこのチョイスセットに入れてもらうよう働きかけることです。チョイスセットに入っている商品は、一般に2つから3つで、多い人でも5つくらいです。7つ以上の商品選択肢を考えている消費者は稀です。
 市場においてその商品の販売数や売上額が占める比率を示す市場シェアという概念があります。これに対して、消費者のチョイスセット内において商品が占めている比率を、マインドシェアと呼びます。マインドシェアは、「次に購入したい商品は何か?」を市場調査することで明らかになります。マインドシェアは、実際の市場シェアのいわば先行指標の役割を果たします。マインドシェアが実市場シェアより低ければ、将来のシェア低下を示唆しており、迅速な対策が求められます。
 チョイスセットに入っているその他の商品は、いわば直接の競合商品ということができます。

(5)プライシング・ダイヤモンド(販価設定への視点)
 価格検討は、主として下記の10の観点から行われます。
 (1)自社製品ラインアップ内の位置づけ (2)競合商品や競合他社の動向 (3)潜在顧客の受容価格帯と価格弾力性 (4)製造原価(開発投資回収分を含む) (5)メーカーの目標売上と収益 (6)販売店などの流通マージン (7)マーケティングコスト(広告宣伝、イベント、カタログなど)(8)消費者のトレンド (9)政府の政策や税制、為替や金利、補完商品の動向 (10)商品市場戦略

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 これらの要素の何を重視するかは商品の特徴や企業の戦略により異なってきます。まったくの新規商品の場合とヒット商品の後継機種の場合では、価格戦略の自由度が異なります。また、成熟市場におけるニッチ商品のプライシングと、今後の成長市場を開拓しようとするパイオニア商品のプライシングの場合も全く異なってきます。

(6)補完商品の市場とサプライヤー
 例えば、自動車は自動車を購入しただけでは使用できません。ガソリンなどの燃料、カーメンテナンス用品(洗車用品、エンジンオイル、ヘッドライトやブレーキランプなど)、パーツ類(タイヤ、ブレーキパッドなど)、保険(強制賠償保険、任意自動車保険、車両保険など)といった商品が付帯し、それぞれが大きな市場も持ち、さまざまな企業がビジネスを展開しています。
 こうした補完商品のメーカーやサプライヤーは、メーカーにとって重要なパートナーです。パソコンやPDA(携帯情報)端末、DVDプレイヤーを考えれば明らかです。パソコンやPDAは、基本ソフトやアプリケーションソフトがなければ何の役にも立ちません。DVDプレイヤーも映画やアニメ、学習教材などのソフトを提供する企業があるからこそ販売が伸びていきます。
 そこで、商品の企画段階から、補完商品の開発メーカーと議論を重ねながら開発を進めていくことがあります。

(7)グローバル市場
 商品コンセプトの検討段階からグローバル市場を想定して企画・開発される商品もあります。今日では、グローバル化は世界市場に輸出販売していくだけでなく、海外に企画・デザインセンターを設置したり、開発・生産拠点を移転したり、アウトソース先のグローバル化までわたっています。
 フランスや英国のブランド製品がイタリアでデザインされ、モロッコや東欧などで製造され、アジアで販売されることはごく当たり前になっています。日産自動車の新型マーチは、タイの生産拠点で製造し、日本国内に輸入販売しています。パソコンを分解し、CPUボードやメモリーチップ、ビデオチップなどの原産国表示を見るとさまざまな国籍の部品で組み立てられていることが分かります。
 メーカーやブランドによっては、海外が主力市場の商品や海外市場専用の商品がある場合もあります。海外市場専用商品の中には、企画・設計段階から現地化し、日本本社の企画・開発部門がほとんど介在していない場合もあります。

(8)商品開発の流れと商品コンセプトの企画
 商品開発の前段階として、商品企画あるいは商品コンセプトの企画があります。
 商品が市場に投入されるまでには、大きく分けて次の段階があります。
 商品コンセプト企画⇒デザイン開発⇒試作⇒生産⇒市場投入
 商品コンセプトの企画に際しては、これまで述べてきたようにターゲット顧客と競合商品を定め、販売価格やコストを想定し、商品の重要な要件を定義していきます。企業や商品によっては、グローバル市場を念頭に置いたり、補完商品の開発企業とどのような形で連携するかも重要な要素になります。
 この商品コンセプトを基に、次の工程であるデザイン案の開発や重要な商品仕様が決められ、最終的には市場投入時のキャンペーンやコマーシャル、製品カタログ、営業マニュアルなどが制作されていきます。

(9)要素技術の開発
 要素技術は、競争優位を確立し、ヒット商品を生み出すために重要な要因です。革新的な要素技術は、市場を変革する大きな力を持っています。
 プリウスを生みだしたトヨタのハイブリッド技術、ヘルシオを生みだしたシャープのウォーターヒート技術、空気清浄機を中核に一連のナノイー製品群を生みだしたパナソニックのナノイー技術はその例です。メーカーでは、さまざまな要素技術の開発が行われています。自動車業界では、ハイブリッドのみでなく、電気自動車、水素自動車、ソーラーカーなどさまざまな近未来技術の開発が行われています。
 こうした技術は、生産コスト、耐久性、実用性、量産化、インフラ整備などの観点から市場化のメドが立ち、市場ニーズや社会動向に合致すると判断された時点で、人員や資金が傾斜投入され開発が加速し、実際の商品に採用されていきます。

(10)コーポレート・バリューチェーンと製品開発
 企業が、付加価値を作り上げていく一連のプロセスをコーポレート・バリューチェーンと呼びます。コーポレート・バリューチェーンという概念は、必ずしも商品価値を生み出す機能連鎖のみを意味するわけではありませんが、ここでは新商品開発との関連で見てみます。
 新商品という付加価値を生み出すプロセスを構成する主な機能には、商品企画、デザイン、開発、技術開発、調達(購買)、生産、営業(含む広告宣伝)、サービスがあります。
 商品力や競争力を生み出すのは、商品企画や商品開発部門の力というよりは、優れた商品を生み出す企業内のバリューチェーンの実力であるともいえます。

 

 

5.企業文化とマーケティングリサーチの役割

 耐久消費財の開発には、これまで見てきたように多角的な側面がありますが、経営的に最もインパクトが大きいのは、開発期間の長さと商品ライフサイクルの長さ、そして投資額の大きさです。新規投入商品の不振は、何年間にもわたりメーカーの経営を圧迫することになります。
 こうした失敗を回避するため、メーカーは商品コンセプトの企画段階から市場投入までの間、現行製品の満足度調査、コンセプト受容性テスト、デザイン案評価調査、試作品評価クリニック、ユーザビリティ評価、広告評価、販価設定調査などさまざまなテーマで何度もマーケティングリサーチを繰り返し、市場の声に耳を傾けます。
 ただ、消費者の意見に過敏になり過ぎると現状改良型のインパクトの弱い商品を生みやすくなります。消費者に限らず、役員や関連部署や販売会社などのさまざまな意見を聞き過ぎると特徴のない商品になりがちです。
 市場を意識しつつ、かつ企画や開発の独自性を最大限に活かしていくためには、プロダクトマネージャーに大幅な権限を与えるとともに、新しい試みやチャレンジを尊重する企業文化や人事評価制度が必要です。
 特徴のない似たりよったりの商品を企業が生みだしているなら、その原因は、消費者の意見を聞き過ぎることではなく、その企業の組織や文化に内在している場合が多いのです。

 

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