マーケティングリサーチのスペシャリスト

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インターネット時代のデータベース構築と活用の心得

 インターネットサーフィンによって、ウェブ検索から必要な指標を探すこともできると述べましたが、本章では、注意しなければいけないデータ活用上の心得を示したいと思います。

 まずは、先に示した基本指標の例をご覧になって、「平均とは何を意味するの?」、「競合商品はどう定義するの?」、或いは「自社の指標にはもっと違う数値が重要だ!」と思った方も多くいらっしゃることと思います。自社のマーケティング活動を適切に行う上でどのような指標が必要なのかを知ること、そしてその指標の意味するところを明確に定義づけることが落とし穴にはまらないための大事な一歩なのです。多くの企業では売上高、粗利率、経常利益率、ROIなど、経営の健全性を判断するためのKPI(Key Performance Indicator)(5)を明確にされていることと思います。“データベースマーケティング”とは、マーケティング管理上のKPIを明確化する重要な役割を持つと理解してください。以下はデータベースを構築、活用する上での基本的な心得です。

 

1,信頼できない情報を指標としていないか!

【解決策:信頼できる情報かどうかの判別方法を知る】
 世の中には廃棄物と同様レベルと思われるものを含め、情報が無数に存在しています。しかし、使用済み携帯電話のIC基盤の貴金属やレアメタルのように、廃棄物も扱い方ひとつで宝物に変わることがあります。情報の扱いも同様に、“宝の取り出し方のテクニックや基本”を身につけているか否かでその価値や結論が大きく変わり、時として非常に危険なことにもなりかねません。データソースや、使用した質問票も全く違う調査結果(指標・数値)を単純に時系列比較して、トレンドを論じている人をたまに見かけます。使用するデータがそれぞれに比較可能なものや、或いは、品質の検証がなされているものなら良いのですが、多くの場合、そこに大きな課題があることに無頓着なのです。データ分析する前に、データ(収集時期/方法/対象など)の出所や品質を明確に理解していることが絶対に必要だと心得てください。たとえば、「昨年に比べ、働きたい女性の比率が10ポイントも上がった」という記事があったとしましょう。昨年の調査が首都圏に住む20代〜30代の派遣社員を対象にしたアンケートの結果であるにもかかわらず、今年のデータが日本全国の20代〜60代までの主婦の回答だとしたらどうでしょうか?読み物のキャッチコピーとしては目を引くかもしれませんが、女性の労働実態や将来の動態を予測するための指数として使えないことは一目瞭然です。

 

2,数値の動きの誤差に右往左往しない!

【解決策:時系列情報で信頼に足らないデータは、積上げ値(移動合計/平均値など)を使って判断する】
 販売データを観察していて、突然数値が大きく変動し驚く事があります。常に販売数量が大きなものは数値があるレベルで安定しているので宜しいのですが、週に2〜3個しか売れていない商品に突然の動きがでると、市場で何が起こっているのか判断に戸惑うことがあります。多くの場合、流通側が行った特売セールや折込みチラシ、或いは、広告や販促キャンペーンの実施が売上に影響しているのですが、特別な事をしていない場合の変動の分析には神経を使います。それらの変化を今後の動向の予兆と取るのか、或いは、データの誤差範囲ととるかを判断するには、普段からデータの傾向値に対する注意深い観察と理解が大切です。そこで、単月単位での数値変化に目を配ると共に、移動推移値から傾向(上昇/下降)を判断する分析手法が役立ちます。突然変動する数値を鵜呑みにせずに、長期で情報を見ていく辛抱強さと慎重さが大切です。

 

3,定量情報に頼りすぎて、新たな予兆を見逃さない!

【解決策:意味ある少数意見を見逃さない。“ひとりの回答(N=1)”を大切にする】
 “N=1を大切にする”とは、大手日用品メーカーの発想として語られている有名な言葉ですが、前項と矛盾するようですが、情報を定量的に捕らえるか、定性的に捕らえるかの違いはとても重要なことです。今では大手流通業のほとんどが、売場やイベントで52週にわたり食レシピの提案をしていますが、その礎となっているのが、生活者の食卓メニューを365日、毎日調べ上げてデータベース化した、“食MAP”(6)といわれる調査データです。このデータに関して有名なエピソードを聞いたことがあります。データの動きを見ていたら、ある一人の対象者の献立にキムチ鍋がよく出現するので、他に先立ってキムチ鍋の販売提案をしたところ、生活者の注目を浴び新しい商品カテゴリーが開拓できた。“N=1”は新市場発見のための重要な考え方なのです。このデータはノイズに過ぎないと切り捨てていたら、韓流がメジャーになるまでキムチ鍋のデビューは遅れていたかもしれません。ブルー・オーシャン(7)をめざす新商品開発のためには、“N=1”の発想は非常に重要ですし、定量調査データから傾向値が読めないときに、注意深く定性情報に耳を傾けることが大切です。
 私も、100名規模の定量調査で、回答者の90%が“欲しい”と答えた新製品アイディアに対する感想を、グループディスカッション(定性調査)で改めて確認したときに、グループディスカッションの参加者からその新製品アイディアが根本から否定されてしまった経験があります。ディスカッションの参加メンバーのひとりの声が大きかったから引きずられたという見方もありますが、定量調査で回答をしてくれた100名の評価者達の商品に対する関与度が低かったことが理由でした。つまり、自分にとってこの商品がどのような意味にあるのかといった点を真剣に考えてくれずに、瞬間的に反応して回答された定量情報は時としてマーケティングデシジョンのノイズになることもありうると言うことです。

 

4,一通過点/断面の数値で判断しない!

【解決策:マーケティングは日々変動する。継続的な情報整理とトレースが重要】
 ある時点でみた販売指標は健全性を示していたにもかかわらず、思ってもいなかった競合品が急激に売れはじめ、一気に自社商品のシェアが落ち込んだという話を耳にすることがあります。特にBUZZマーケティング(8)が盛んな現在、IT環境下で瞬時に広がる口コミの結果として、特定の商品が爆発的に世界中に広がることがあります。マスコミの報道によってこれほどまでに政府や政党の支持率が乱高下する日本人の気質にあっては、昨日まで大丈夫だと高を括っていても明日には突然崩壊することもありうるのです。大いなるオセロ時代、自社の情報だけではなく、競合や他業態、他カテゴリーのヒット情報を常にウォッチする心構えが成功への大きな秘策といえましょう。


 

(5)KPI:重要業績評価指標とは、組織や個人の目標達成状況を評価するために設定される優先順位の高い業績評価指標

(6)食MAP:「食卓 Market Analysis & Planning」の略で、食卓を市場に見立てたマーケティング情報を365日観察することで、誰が・どこで・何を買い・いつ・どんな食卓で、どのように調理して食べたのかを知ることができる情報 ← 株式会社ライフスケープマーケティングの解説から

(7)ブルーオーシャン:INSEAD教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュによる共著のタイトル、『ブルーオーシャン戦略』(ランダムハウス講談社)にでてくる表現。企業が生き残りをかけて争いを繰り広げる既存の市場を「レッド・オーシャン」、競争者のいない新たな市場でまだ生まれていない未知の市場空間を「ブルー・オーシャン」と名づけている

(8)BUZZマーケティング:“BUZZ”は英語で騒音を意味する言葉で、最近では口コミを意味するマーケティング用語として使用され、この口コミを活用したマーケティングをバズ・マーケティングと呼ぶ

 


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