マーケティングリサーチのスペシャリスト

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定性(質的)調査の成り立ち

 定性調査には、グループインタビュー(座談会方式で進めるインタビュー)、デプスインタビュー(一対一のインタビューで深層心理を解明)などが代表的な手法としてあげられます。これらの手法は、特に、グローバル企業が世界戦略を進める上で、文化的背景の違いによる生活者の嗜好性の違いやモノの価値判断の基準をそれぞれの国や地域ごとに把握するための効率的な手法として発展し、確立されてきました。

 日本でも外資系企業が日本人の嗜好を探る有効な手法として70年代末頃から徐々に広がり始めましたが、この発展過程でガウス生活心理研究所の油谷先生やマーケティングコンセプトハウスの梅澤先生が独自の手法や分析方法を開発され、これらの手法やモデルによって多くのヒット商品が世に送り出されて来ました。また、生活者の心理描写をより的確に判断するために、最近では行動観察をベースとしたエスノグラフィー(1)アイトラッキング調査(2)、電脳調査の応用までに発展し、少ないサンプルながらもその被験者の背景情報や“言葉として発せられた潜在的な意識”をあぶり出し、その中から生活者自身も気づいていないニーズやモチベーションを喚起するスイッチを発見し、マーケティング施策に反映させていこうという動きが活発になってきています。

 私が駆け出しのリサーチャーとして調査業界に入った80年代、まだ定性調査は日本ではそれほど大きな存在ではありませんでした。継続する経済成長のもと、市場の拡大を担ったマスマーケティング活動が主流だったため、定量調査で最大公約数を見つけ出し、一気にヒット商品を狙うことが可能な時代だったのです。

 具体的な例として、「人口統計に基づいて無作為に抽出された世帯の主婦100名に新商品を見せたところ、そのうちの50%が新商品の購入に興味をもってくれたので、この新商品を世に送り出せば、日本全国4,000万世帯のうちの半分が買ってくれる可能性があるから、この商品を100円で発売すれば、20億円の売上が予測されるので商品化しよう」というように、定量調査に基づき、統計学の理論からシンプルに“マーケティングディシジョン”が下されていたのです。

 今でこそ、経営(マーケティング)判断をする上で、生活者の商品興味ポイントや購入意識に対するきめ細かなニュアンスの確認や、より深い消費者インサイトが求められる時代になりましたが、80年代は日本の代表的な企業ですらグループインタビューを積極的に展開することはほとんどありませんでした。外資系企業が日本人の嗜好やニュアンスを知りたいというニーズが、日本文化を背景に成長してきた日本企業にとっては必要なかったことがその大きな理由のひとつだったのでしょう。ただし、新商品を開発する際、開発関係者が集まってその商品の可能性や魅力を語り合うだけではなく、まったく企業利害と関係のない一般生活者たちの反応や意見を聞くことが、開発者の思い込みを排除する意味でも重要な意味があること、そして、「生活者の感性に真摯に耳を傾けることのできる機会」と捉えるだけでも非常に大きな意味があると感じる企業も増えていきました。

 


 

(1)エスノグラフィー:文化人類学、社会学において行動観察とインタビューを繰り返しながら、行動様式や文化を明らかにする手法。家庭内での生活行動や店内での購買行動を観察し、本人も意識していない本質的なニーズや価値観を探る手法としてマーケティングにも応用されている。

(2)アイトラッキング調査:最適なウェブ画面や店内の棚割開発を目的として、機材を使って被験者の視線の動きを計測、分析し、何から見始めるのか、何を最も注視するのか、どのようなキャッチフレーズに目が留まり、興味を持つのかなどを明らかにする手法。

 

 


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