マーケティングリサーチのスペシャリスト

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顧客視点のマーケティング管理と、その「見える化」を支えるリサーチの重要性

  「何でもあり社会」と言われていますが、その中にも基軸となる重要なキーワードは沢山あります。単に市場、競合、そして消費者の情報を集めるだけでは、時代の欲求に応えたサービスの創造は難しいでしょう。より豊かな価値を追求する、消費者自身が表現できない欲求への答えが商品やサービスに求められています。変化し続けるマーケットに対応して、売上げとシェアの拡大を進め収益力を上げる努力をするには、現実的な課題を理解すると共に成長機会の発見と取り込みを図らねばなりません。その為に企業と生活者の接点を管理するマーケティングとこれを支えるマーケティングリサーチの意味をお話しします。

 マーケティングリサーチとはマーケティング活動上の課題を咀嚼するため、事業領域に存在するあらゆる物事の実態とその背後を把握する科学と考えられていますが、私は、「マーケティングリサーチの役割はマーケティング活動を“見える化”し正当化すること」と定義づけています。ところで、「マーケティング活動の見える化」とはどう云った事を指すのでしょうか。私は、変化する経営・マーケティング活動に関する情報共有の一環として、関係者一同が事業の戦略的方向に対する市場の反応を共通理解できるチャンス、そして、共有している事業目標の進捗状況を組織全体で把握/管理し、関係者一同を同じ方向に引っ張っていくための大切な考え方だと思っています。また同時に、これによって関係者全員が知恵を出し合える場が生まれるのです。

 そして「見える化」を支えるマーケティングリサーチは2つの大きな機能(役割)を持つと考えています。先ず、(1)市場の事実を知ること(事実の探索)と、(2)マーケティングの結果を知ること (仮説の検証・実証)です。技術的にマーケティングリサーチは、定量調査と定性調査の2つに大別されます。

※定量調査: 結果を量的に捉えることで、マーケティング上の判断・決断を具体的に支える。
※定性調査: 事象の背後に潜むインサイト(感性や意識)の深堀と明確化が可能になる。

 ここで簡単に上記2つのリサーチの機能(役割)を具体的な領域で見てみます。先ずは;

(1)【市場の事実を知る】

 マーケティングリサーチはマーケティング活動の機軸である4P(Product:製品、Promotion:広告・販売促進、Price:価格、Place:流通)を支える8Functions:8つの機能(Research:リサーチ、Product Development:製品開発、Trade Strategy:流通戦略、Communication Strategy:広告・宣伝戦略、Sales Promotion:販売促進、Selling:営業、Information System:情報システム、Distribution System:流通システム)の最初に位置づけられ、以下に記す他のFunction領域の策定や変更に必要なデータを多方面から様々な手法を用いて引き出す役割を持っています。ここではマーケティングリサーチがリアルタイムでマーケットに顕在・潜在する現象(事実)を明らかにすることに貢献します。

◆経営・マーケティング戦略:市場、社会・経済動向、消費者価値観、購買行動、競合・自社業績、製品・ブランド別売上げ、マーケットシェア、他
◆製品政策:既存製品の課題、自社・競合ブランド価値、製品使用実態、テストマーケット結果、他
◆流通戦略:チャネル&カテゴリー動向、エリア動態、トレードプログラム実態、他
◆広告戦略: メディア・広告接触、認知、広告効果、他
◆販売促進: 販促接触、認知、販促効果、データベース構築、他
◆営業政策・活動: 商品配荷率、小売店頭売上、価格動向、競合他社活動実態、新製品販売後動態、他

(2)【マーケティングの結果を知る】

 この領域は事実の確認というより、新商品・サービスの導入や広告宣伝活動がどういった結果を事業成果としてもたらすのかを知る、言い換えれば、マーケティング活動の到達点の予測を行う事が主なテーマになります。下記の新製品開発プロセスに示されているように、新製品アイデア開発、コンセプト開発(製品&コミュニケーション)、販売促進プログラム開発(マス&店頭)、価格設定、擬似テストマーケット、開発プロセス、広告アイデア開発、販促アイデア開発、など多くの領域でマーケティングリサーチが活躍し、結果の予測をすると共に「計算されたリスク」の提言も行います。このプロセスに充分な時間と費用をかける事で、経験と勘からは導き出せない成功への確立が生まれるのです。

 

マーケティング現場の実際では、市場の事実を認識するためのリサーチ(1)は、正しい理論と企画、そして適正な手法で管理されている限り、その結果の使用に関してはそれほど神経質になる必要はありませんが、リサーチの課題やチャレンジは(2)のマーケティングの結果を知るところにあるでしょう。この領域でマーケティングリサーチ担当者とマーケティング担当者、或いは経営者の間で多くの摩擦がおきます。非常に多いのが、「こんな結果は信じない、だからプレゼンの内容に入れないで欲しい」、或いは「リサーチの結果通りに進めたら失敗した、どうしてくれるんだ!」と云った会話です。ここで理解しておかねばならないことは、マーケティングリサーチはあくまでもトータルマーケティング管理上のツールのひとつであると云うことです。マーケティングリサーチをマーケティング管理のツールとして使う以上、使用者が“Ownership Mind(自己管理意向)”をしっかりと持ち、結果の解釈、そして次ステップへの決断を自らの責任において行う事が求められます。但し、この時にリサーチ担当者との充分なコミュニケーションが必要になります。私の経験から、「あまりに予測と違う結果、或いは不可思議なリサーチデータ」には必ず背景(理由)があります。どの様な場合であれ、提供された結果を頭から肯定/否定するのではなく、先ずは常識を基に調査結果の意味を考え、なぜこの様な結論になったのかを冷静に分析していくと、それが正しい結果であったのか、或いは、歪んだデータと云えるのか判断できます。リサーチ結果はその時々の社会環境や調査設定に影響される事があります。本当にリサーチ対象者がその様に反応したのか、或いは、リサーチ管理(設計)上の問題で部分的に課題があるために一定の条件を考慮してデータを使用しなければならないのか、などの判断が大切です。

 リサーチデータはあくまでも経営上の判断をする為の指標の一つであって、判断そのものではない事を忘れないでください。また、全数調査でない限り、サンプリング調査には必ず“誤差”がつきまといます。それ故に、サンプリングプロセスや対象者コンタクトプロセスにおいて不備が生じた場合、その“誤差”は限りなく不確定なものとなります。データソースの信頼感が総てといっても過言ではありません。また、一度活字になったリサーチ結果は、データソースに関係なく独り歩きを始めますし、低品質のローデータに複雑な解析を加える事で事故はさらに広がります。

 私は、トータルマーケティングプロセスの中でのリサーチ管理を経験し、上記に関連した多くの難しい実際例を見てきました。例えば;

1.リサーチ結果を信じないマーケティング担当者

 コンセプトテストから始まり、シュミレーションテストマーケットの結果総てを分析して、「このマーケティングプランで行くべきではない」との結論を会議で発表したが、マーケティング担当者が結果の解釈を歪めて社長を説得し発売したところ、全く売れなかった。不幸中の幸いはテストマーケットでの出発に規模を縮小していたので痛手が少なかったこと。

2.担当者が良い結果を出すために創作した結果で大失敗

 新広告キャンペーン調査の初期段階で結果が良くないのを見たマーケティング担当者が、途中でリサーチ用広告マテリアル(ストーリーボード)に現実のマーケットでは実行不可能な詳細な解説を加えた結果、リサーチ結果は良くなったが実際のマーケットでは全く効果が無かったこと。

3.リサーチ担当者が調査設計を変えた事で時系列比較が困難になった

 プレゼンを受けたリサーチデータ中に、常識では理解しにくいことなのですが、幾つかの有名ブランドの「助成ブランド認知率が1年半の間に有意に下落(6%〜10%)」した。その理由として社会状況の変化をあげたリサーチャーと徹底的に原因を探ったところ、前回調査と違うサンプリング手法を使用したのと同時に、質問票に若干手を加えたことが判明。リサーチャーが怖くなって事実を告げられなかったのですが、この結果をまともに受け取っていたらマーケティング戦略の修正に発展していたと思います。

4.データソースを確認せずに大恥をかく

 営業部の責任者であったときですが、経営会議で社長から新商品の販売動向を聞かれ、直前に部下から書類で報告のあった「凄く良く売れています、 50%位の店でシェアアップが見られます」をそのままプレゼン内で発表したところ、データの出所は3〜4人の営業マンが上得意先で聞いてきた話であって、直後に出た実際のデータでは販売動向が芳しくない結果を示し、立場を失ったこと。また、似たような話では、「営業の3割がこの製品は売れると言っています」と云う報告の出所が数人の営業員の話だったり、、、

 逆に、リサーチを非常に有効的に使用し、成功した例も枚挙に暇がありません。特に、クリエイティブアイデアに関する定性調査(グループインタビュー)で、参加者がセッション中に実際に使った言葉で新しい商品概念がうまれ、それ以降、新しい製品分野としてパッケージにもその言葉を入れ大成功したこと。また、マーケットシェアが低下中の某有名ブランドのリポジショニングを行う際に、複数のリサーチ手法(モデル)を組み合わせ、多角度から課題の分析と可能性の確認を行った結果、再び成長トレンドを取り戻せたことはリサーチャーとしての冥利に尽きませんでした。企業によっては、「売上の回復が見込めないブランドに投資をするな」と割り切って、売上下降ブランドに対し投資をストップする経営者もいますが、正しい手法とプロセスを使用する事で再生を成功させた例を2つ経験しています。

 以上のように、マーケティングリサーチとその使用方法や態度マナーを一口で語ることは難しいですが、マーケティング活動(プロセス)の「見える化」を実現するという役割を十分に認識し、目的に応じて使い分けることで経営判断の大きな支えになってくれます。但し、使い方を間違えるととんでもなく大きな代償を支払うケースも出てきます。それゆえに、リサーチ部門、或いはリサーチを担当する部署にも以下の基本ポリシーをしっかりと見定めて管理することが求められます。

  1. 常に中立的な立場を貫いて行くこと (Fairness)
  2. 経営&マーケティング管理上の課題とニーズを正確に把握し、最善の調査機会を提供すること (Intellectual understanding)
  3. 様々な市場調査経験で培ったノウハウを結集し、調査結果にプロの解釈を加えること (Professional insight)
  4. 結果に責任を持つこと。その為にリサーチ企画とその設計において最善の注意を払いプロセス総てを管理すること(Responsibility)

 



経営者に顧客と向き合うチャンスを提供するマーケティングリサーチ

  「どうして君は他人の報告を信じるばかりで自分の目で観察したり見たりしなかったのですか? ・・・ ガリレオ・ガリレイ」、という言葉があるそうですが、マーケティングリサーチの役割でもう一つ忘れてならないことがあります。通常の消費者調査のデータ共有でも生活者行動の事実に触れられることから「見える化」の立役者になっているマーケティングリサーチですが、同時に「顧客との直接的な接点を提供する」という副次的な側面を持っていることです。これによって、最終顧客(End user)との接点が非常に限られた、経営層や社内の関係者に顧客と直接接する機会を提供する事が出来るのです。例えば、会場調査の現場でインタビューの状況を近くで観察したり、定性調査(グループインタビューやデプスインタビュー)の現場に足を踏み入れることで直接(実際には間接的ですが)、顧客の意見に耳を傾けたり意識や行動レベルに触れる事が出来ます。この経験をした経営者は確実に現場サイドの意識に近寄り、市場性を反映した地に足のついた経営判断と決断をより現実的に行うことが出来るようになるのです。また、マーケティングや営業の担当者がいくら会議の席で説明しても伝えにくいニュアンスがよく理解されるようになります。但し、経営層、或いは担当者達の考えていた事と違う結果が目の前で展開された時には、多くのケースで、「この生活者達は考え方が歪んでいる、一人変なオピニオンリーダーが居て皆の意識をかく乱している、こんな調査は信用できない」等の発言を聞く事がありますが、その場合に私は必ず、「この方々も我々の製品の対象となる大切なお客様に違いないのですよ!」と言ってきました。そして、上記のような発言をする関係者も、冷静になった時に自分自身で見聞きしたことを思い出し、後の判断に影響・反映されている事が多かったと記憶しています。

 



マーケティング活動の革新的変化に対応するマーケティングリサーチの役割

  最後になりますが、近い将来、マーケティングの「見える化」を支えてきたマーケティングリサーチが大きなチャレンジを経験する事になると思います。それは、ブロードバンド時代に革新的変化を見せ始めた次世代マーケティング活動の中での「新しいリサーチ概念と革新的手法の確立」です。コミュニケーション(広告宣伝)&セールス(販売)上にレイヤー(媒体・介在者)を置かない環境下で、製造販売者と購入者が直に商品・サービスの情報と販売のやり取りを行う、ダイレクトマーケティングの究極とも云うべき、ネット時代の”One-To-One Marketing”の拡大普及によって、マーケティングデータの収集方法や、手持ちデータのデータベース化など、データ加工や使用の実際に大きな変化が出てくると想像します。新しい環境では、製造販売者が購入者のプロフィールや購入履歴など、自社製品に関連するデータを直接収集する機会が増え、また、それらを使用して販売活動の高効率化が図れるのです。こういう時代になると、今まで色々な手法を駆使してデータ収集を担ってきたリサーチの役割が変化する可能性が出て来ます。但し、データベース上での自社顧客の囲い込みは良いものの、他社データ、或いは競合製品ユーザーのデータ収集には課題が残り、その収集方法に更なるアイデアが必要になってきます。そこで先ほど触れた、「新たなリサーチ概念と革新的手法の確立」が必要となってくるのです。

 別の観点から見ると、こういった時代だからこそマーケティングリサーチ管理者は優れたマーケティングセンスと共に、リサーチ全般の理論武装(技術)が求められます。インターネットの普及で簡単に在り物のデータを見つけ出す事が出来る時代、そして、インターネットリサーチの普及で「1億総リサーチャー現象」と云われるように、手軽になったがゆえに起こるリサーチデータ管理の質の低下に懸念を抱いていますが、リサーチの根底に流れる基本的な概念と技術は普遍と考えます。世の中に様々なデータが溢れ、「どのデータを信頼してビジネスを行えばよいのか?!」、経営判断に戸惑いが見られることも多くなると思われますが、溢れ出るデータをアクティブに、そしてプロフェッショナルにコントロールしながらマーケティング活動を支え続けていくリサーチの責務は改めて重いと考えます。



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