マーケティングリサーチのスペシャリスト

メニュー:コラム 第9回
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潜在意識を探ることがブルーオーシャンへの切符に?

 日常では言葉にできない感性を引き出すときに、頭で深く考えさせずに瞬間的に思いつく単語を繰り返し表現させる事で意識の奥を覗き、出てきた言葉をデータ化し量子力学を応用して深層心理をあぶりだす手法や、投影法(3)(プロジェクティブ・テクニック)、ラダリング(4)など潜在ニーズを引き出すための心理学を応用した手法には枚挙にいとまがありません。

 突然ですが、人間はときどき嘘をつきます。しかも性質(タチ)の悪いことに本人も嘘だとまったく意識していないことが多いのです。そのときは実際にそう思っていたのです。前提となる情報によって人の意見は容易に変わりますが、これは嘘ではありません。また、「この新しい商品をどう思いますか?」と問われたときに、特に興味を持たなかった場合でも、無理やり聞かれれば無理やり答えようとするのが大人社会の基本的な態度です。本気で思っているのか、それとも仕方なく言ってみたのかを見極める方法は、現代でこそ嘘発見器や脳科学の反応装置もありますが、人間観察の真骨頂ともいえる鋭い感性と、回答の裏側の意味を読み解く分析者の洞察力や想像力にほかなりません。

 リサーチを実施する際に、リサーチャーは生活者の言葉を引き出し、それを集めた発言集として提出すればそれで仕事は終わり、生活者の発した言葉の意味に対する解釈は不要であるということを言う人もいますが、私はその考え方は誤りだと思います。特に異文化圏で調査をしていると、通訳の質がすべてとなってしまうことがあります。通常、同時通訳者を入れて発言の一問一答を訳していくのですが、発言と翻訳の間にタイムラグが生じ意味が誤解されたりすることがあります。外国語での調査ではとんでもない誤訳が商品開発の成否の分かれ道となる場合が多いため、分析者やモデレーターがそれぞれのインタビューの結果をベースに調査対象者のインサイトを含め、結果を解説できるだけのスキルが必要です。また、グループインタビュー内で疑問に思ったことをすべて確認するためのデブリーフィング(de-briefing)という、インタビューが終わったあとに関係者一同が介して行われる、結果認識の共有会が重要な役割を果たします。

 


 

(3)投影法:回答を自分以外の人や物に託して表現してもらう質問手法。いろいろな方法がある

(4)ラダリング:相手との対話の中で、徐々に掘り下げた質問を繰り返すことで相手のニーズや価値観を引き出す手法のこと

 



インサイトを共有するための有効な手段

 グループインタビューの発言集ができあがっても、問題はそれぞれの発言のニュアンスが文字情報では十分に語られ(表現され)難いことです。語気を強めて発言された言葉なのか、インタビュアーに促されて仕方なく発言されたものなのかの見極めが大切です。関係する多くの人がインタビューの状況や結果を共有し、その上で疑問に感じたことをその場で明らかにした後、さらにどのように解釈できるかをディスカッションする機会は非常に重要です。その集大成として、ワークショップを行うことも最近は多くなってきています。さまざまな手法がありますが、大事なことはグループインタビュー結果の読み方を全員が納得した上で、それぞれのプロジェクトの進行についての最適な解を見つけることです。これにはさまざまな手法が開発されています。

 



定量調査の結果との違いをどう読むか

 グループインタビューなどの定性調査を実施すると、ときとして定量調査とまったく違う答えが出てくることがあります。そういったときには、どの対象者がどのような前提でその発言をしたかということに着目することが重要です。

 この件に関して過去の事例を2つほどご紹介したいと思います。いずれも商品コンセプトの評価を調査対象者にしてもらったときに発生した定量調査と定性調査での評価の違いの例です。最終的にどのような判断を下したか、それは皆さんのご想像にお任せするとして、商品が世に出てからの判断は、両方のケースともに定性調査の結果に軍配があがりました。30年のリサーチ経験の中で、筆者も多くの成功、失敗両面の経験をしていますが、今でも定量調査と定性調査の結果に違いが出たときには相当のエネルギーをその判断に使います。簡単なことではありませんが、発言者の声に注意深く耳を傾けることで多くのヒントが見えてきます。

【20年前の使い捨てコンタクトレンズの受容性:新規カテゴリー商品導入時の注意点】

 先ず、当時のコンタクトレンズユーザーのほとんどはおしゃれを気にする若い女性でした。使い捨てレンズも当然若い女性が主なターゲットユーザーだと考えられていましたし、定量調査の結果も“女性の受容性が高い”というものでした。ところが、発売前に広告のコミュニケーションコンセプトを作成するためにグループインタビューを実施したところ、「女性ユーザーは毎日手入れをすることに不便を感じているものの、余分にお金を払うほどの不便を感じているわけではなく、そのようなものにお金をかけるくらいなら新しいバッグを買いたい」という意見が主流を占めました。一方で男性は、「現在のコンタクトレンズは手入れが面倒だから使わない、使い捨てコンタクトレンズなら多少のお金がかかっても使いたい」といった、便宜性に対し費用とのトレードオフができるという明確なメッセージが主流を占めました。

 この結果通り、市場投入直後は使い捨てコンタクトレンズのユーザーのほとんどが男性でした。定量調査では、コンタクトレンズユーザーの中で不便を感じる人の率は男女でほとんど差はありませんでしたが、どの程度の不便さかは定量調査では十分に測れなかったということです。また、定量調査の結果を詳細に分析したところ、コンタクトレンズユーザーと非ユーザーの間での使い捨てコンタクトレンズの利用意向の差は、ユーザーにおいて圧倒的に高い結果が出ていた事が判りました。結局、コンタクトレンズの非ユーザーの意見は、ユーザーの意見に比べ、実体験や商品知識そのものに大きなレベルの差があり、定量調査で説明したコンセプトの意味を十分に理解されないまま回答されていたというデータ上の落とし穴があったのです。グループインタビューでは参加者のひとりひとりが十分に商品の内容やベネフィットを理解した上で意見を確認できるため、より現実的で正確な意見が聴取できたということかと思います。

【既存商品のリニューアルパッケージ開発:商品リニューアル時の注意点】

 ロングセラーの人気商品も競合商品の発売などによって売り上げが伸び悩み、商品リニューアルをすることで目先を変え、売上げを維持することを考えることが多くあるかと思います。あるソフトドリンク製品のパッケージリニューアルにあたり、その商品のユーザーと非ユーザー100名ずつを会場調査に呼んで新しく開発したパッケージの評価を行ったところ、ほとんどが良い評価を下し、リニューアル発売に問題なしとの結論がでました。この結果を受け、リニューアル発売販促コンセプトの受容性を明確にする目的でユーザー、非ユーザーの2グループを対象にグループインタビューを実施しました。ところが、この定性調査では、ユーザーからも非ユーザーからもリニューアルした新パッケージは酷評されました。その結果に大きな戸惑いを受けると共に、定量調査の結果を優先するのか、定性調査の結果を優先するのか、大きな議論になりました。

 グループインタビュー(定性調査)の弱点は意見を収集する人の絶対数が少ないため、出てきた意見が市場を代表していない偏ったものになることもありますし、他のグループインタビュー参加者が大きな声で意見を述べる特定の人の意見に左右されやすいというものもあります(もちろんその欠点を補うためのさまざまな技術や手法が開発され、最近ではそのような議論はなされなくなってきています)。一方、定量調査では、「好きか?/嫌いか?」、或いは「買いたいか?/買いたくないのか?」を単純に数値化出来るため、その好き嫌いの微妙なニュアンスの違いを十分に把握しきれないことがあります。ほとんどの大型マス商品については定量の結果で十分に判断ができますが、この例のように定性調査でまったく違う結果が出た場合の決断の下し方は非常に難解です。このときにリニューアル商品に対して市場が下した結果は定性調査の結論と同じでした。つまり、ソフトドリンクは味が重要であるという建前が会場での定量調査では優先されましたが、グループインタビューでは、「かっこいいパッケージを机に置きたい/皆に見せたい」という本音が見えて、パッケージに対するこだわり度合いが明確になったということでした。ソフトドリンクは味のレベルはもちろん、使用者にとって意味のある/満足できるパッケージであることが重要であることが定性調査で改めて確認されたということです。ユーザーが選ぶパッケージは自分の考え方やスタイルの代弁者の役割も果たしていたのですね。

 



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